野楽力研究所

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東京都薬草園・・・令和4年7月27日

 暑い日差しの中、薬草園を訪れました。訪問客はほとんどなくゆっくり観察できました。木陰のある林もありますので、大丈夫です。この時期でしか見られないカワミドリ、ニンジンボク、ミソハギ、タバコの花が咲いています。今日の様子です。

(↑上の写真)左=薬草園入口、中=キクイモモドキ、右=コガネバナ

(↑上の写真)左=クロホオズキ、中=コオニユリ、右=オニユリ

(↑上の写真)左=オミナエシ、中=メハジキ、右=オオケタデ

 オオケタデ(大毛蓼)はタデ科イヌタデ属。「ウィキペディア」など各種Webによると「熱帯アジア・東南アジアの原産。日本へは江戸時代に渡来し、現在では日本各地に野生化している。背丈ほどに育つ大きなタデで、毛で覆われているので大毛タデ(大毛蓼)といわれる。マムシの解毒剤や毒虫や化膿性の腫れ物などの、民間薬として利用された」ということです。緑の草原で背が高く赤い花を垂れ下げているので目立ちますので、立派な花、と子ども心に思っていたものです。

(↑上の写真)左=タバコ、中=ノゲイトウ、右=カラスビシャク

 タバコ(煙草)はナス科タバコ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「南米熱帯地方原産とされる多年草。温帯に植えると1年草になる。葉にはニコチンを含み、喫煙のため南米先住民に古くから用いられていたが、1518年頃スペインの宣教師によってヨーロッパにもたらされ、急速に世界中に広まった」という。その一環で日本へももたらされた。その様子を芥川龍之介著『煙草と悪魔』より引用します。面白いので今回も再掲しました。「悪魔はイルマン=修道士=の一人に化けて、フランシスコ・ザビエルと一緒に日本へやって来た。日本での退屈な時間に園芸を始めた。持ってきた種子を蒔いて育てたものは、茎の先に漏斗のような形をした薄紫の花をつけた。悪魔は骨を折っただけに、この花の咲いたのが、大変うれしかった。と、そこに通りかかった牛商人が『もし、お上人様、その花は何でございますか』と問うと、上人に化けている悪魔は『この名だけは教えられない』という。悪魔は『三日の間に誰かに聞いてもいいですよ。この名が当たったら、これをみんなあげますよ。その他にお酒なども』という。『賭けですよ』ともいう。悪魔は『もし当たらなかったら、あなたの体と魂をもらいますよ』と右の手をまわして帽子を脱いだ。三日目の晩、牛商人は、もくろんでいた計画を実行した。即ち、牛の尻を思い切りたたいて畑の中に追い込んだ。けたたましい牛の鳴き声と蹄の音に、寝込んでいた悪魔はびっくりして窓を開け『こん畜生、何だって、おれのタバコ畑を荒らすのだ』と怒鳴った。牛商人は、首尾よく、タバコと云う名が分かり、言い当てて、悪魔の鼻を明かした。悪魔は敗北した。が、それ以後、日本全土にタバコを普及させることができ、日本を堕落させることにおいては、悪魔としては勝利した(一部翻案)」――タバコには、こんな裏話があったんですね。

(↑上の写真)左=ミソハギ、中と右=セイヨウフウチョウソウクレオメ(白花と赤花)

 ミソハギ(禊萩)はミソハギミソハギ属。日本各地及び朝鮮半島に分布し、山野の湿ったところに生える多年草という。ちょうど旧盆の頃咲く(地域によって多少のずれがあります)ので盆花とされ、ご先祖が戻ってこられる依り代として用いたり、禊萩を濡らして払い、その雫で禊(みそぎ)をしたり、供え物を清めたりした、ということです。これらのことから、和名禊萩の謂れはたくさんある中で、禊に用いられた萩に似た花なので「みそぎはぎ(禊萩)」と言われていたものが略されて「ミソハギ」になったというのが一番ふさわしい謂われではないかと思いますがどうでしょうか。

(↑上の写真)左=センニンソウ、中=ヤイトバナ、右=ソクズ

(↑上の写真)左=ヤブラン、中=クルマバナ、右=マルバヤブマオ

(↑上の写真)左=イヌザクラ、中=クララ、右=シロヤマブキ

 クララ(眩草)はマメ科クララ属。ウィキペディアによると「本州、四国、九州、中国大陸。日当たりの良い山野などに生え、大株になって自生する」という。ここ薬草園でもあちこちに点在して株を作っています。「全草有毒で、根の部分の毒性は強く、人では口にすると死に至るということであり、放牧地などでは牛も食べないので、このクララが大株を作って残っている光景が広がっていた」といわれます。そのため「クララのみを食草とするオオルリシジミというシジミチョウ(美しい青い蝶)には絶好の繁殖地となっていたのですが、放牧地が放棄され、草が生い茂り、クララも減少するとオオルリシジミは激減し、生息地域が狭まり、今では絶滅危惧種になっている」ということです。和名クララ(眩草)はAPG牧野植物図鑑スタンダード版によると「眩草(くらくさ)の略で、根汁はひどく苦くて目がくらむほどの意。根は苦参という生薬として駆虫薬として用いられる」ということです。

(↑上の写真)左=ノグルミ、中=ゴンズイ、右=イヌマキ

(↑上の写真)左=夏空の広がる園内、中と右=木陰のある園内雑木林

東京多摩地区街中自然観察・・・令和4年7月25日

 第2の梅雨を思わせる天候も明けて、夏空が広がりました。日陰を選びながら街中自然観察をしました。園芸種や外来種が幅を利かせていました。今日の様子です。

(↑上の写真)左=夏空が広がる多摩地区、中=サルスベリ(白花)と右=(赤花)

 サルスベリ百日紅、猿滑)はミソハギサルスベリ属。「中国原産の落葉高木。葉は通常2対互生(コクサギ型葉序)、対生になることもある。花は紅の濃淡色または白色で、円錐花序になり、萼は筒状で6裂、花弁は6枚で縮れている(各種資料参照)」と、いうことです。佐伯泰英著「蛍火ノ宿」に百日紅の描写がでてきます。――「(磐音(いわね)は、今津屋のおこんに奥へと案内された。)庭には、水無月から葉月にかけて百日余りの長さにわたり花を咲かせるので百日紅と名づけられた赤い花を咲かせた百日紅(ひゃくじつこう)が強い陽射しを受けていた(一部翻案)」案内された部屋から庭に咲く百日紅の花に、磐音はどんな気持ちで目をやったのでしょうか。

(↑上の写真)どれもムクゲの花

(↑上の写真)左=ミソハギ、中=コガマ、右=イグサ

(↑上の写真)左=ヒマワリ、中と右=矮性ハイビスカス

(↑上の写真)左=ヤイトバナ(ヘクソカズラ)、中=コヒルガオ、右=オニドコロ

 ヤイトバナ(灸花)はアカネ科ヘクソカズラ属。普通この草はヘクソカズラと言われていますが、野楽力研究所としては、ヤイトバナという名称を推奨しています。「APG牧野植物図鑑スタンダード版」によると「日本各地及び朝鮮半島、中国、フィリピンなどの温帯から熱帯の荒地や山野の草地に生える多年草」ということです。 有川浩著(小説)「植物図鑑」に「ビルの隙間の駐車場のフェンスにつる草がびっしりと絡みついており、白い色彩はそのつる草が咲きほこらせている小花だった。百合にフリルのカッティングをつけたようなベル形と中心を飾るえんじ色が愛らしい。その花がまるでブーケのように茎のあちこちを飾っている。部長は、(さやか、から)これが雑草と聞いて驚いたように目を丸くした。――『雑草という草はない。すべての草には名前がある』と昭和天皇は仰った。「ヘクソカズラといいます。つるや葉をちぎると名前の通り悪臭がしますよ。花の可憐さや特徴を採ろうとしてサオトメカズラやヤイトバナなんて別名も考えられたようですけど、やっぱり一番インパクトのある名前が定着しちゃった一例ですね」そこまで何に気なしに喋って、さやかは呆気に取られている部長にやっと気づいた。「どうなさいましたか?」「いや・・・」部長は苦笑いしながら答えた」(部長はどんな気持ちだったでしょうか)

(↑上の写真)左=オニユリ、中=(参考)コオニユリ、右=キバナコスモス

 オニユリ(鬼百合)はユリ科ユリ属。「APG牧野植物図鑑」によると「もとは中国原産で古い時代に伝来したものが栽培中に逸出して野生化したと考えられる。しかし、対馬には、真の野性もある。鱗茎を食用として栽培もされる多年草。葉腋にムカゴ(栄養体)を出す。花は夏。和名は巨大な百合の意」という(一部翻案)。「オニユリは染色体の数が3倍体で種子を作ることができないので葉腋にできるムカゴのみで繁殖し、種子を全くつくらない。ムカゴは枝が短縮したもので、ムカゴを切ってみるとユリの球根のようになっている」という(Webや資料参照)。外見の大きい、小さいでは区別がつかないですが、ムカゴがついていればオニユリ、ついていなければコオニユリです。ムカゴという子ども(赤ちゃん)を抱えていれば大人のオニユリで、抱えていなければ(ムカゴがなければ)子どものオニユリ(=コオニユリ)と覚えておくといいですね。今回の観察ではコオニユリはありませんでしたので、比較のため参考にコオニユリを載せておきました。

(↑上の写真)左=イヌビエ、中=コニシキソウ、右=イヌタデ

(↑上の写真)左=夏空の街中公園、中=ヤブガラシ、右=タケニグサ

(↑上の写真)左=アメリオニアザミ、中=ヤブミョウガ、右=マンリョウ

(↑上の写真)左=アガパンサス、中=クラピア、右=タマサンゴ(フユサンゴ

都立小宮公園・・・令和4年7月21日

 都立小宮公園はJR八王子駅北口からバス10分、八王子郵便局前下車徒歩8分でサービス・センターに着きます。公園の周囲は里山(丘)で囲まれ、中心部は谷になっており、小川もあり、弁天池に流れています。ウバユリが咲きはじめ、オオバギボウシヤマユリウマノスズクサ、アキノタムラソウなどが咲いています。今日の様子です。

(↑上の写真)左=サービス・センター、中=園路、右=今を盛りのヤマユリ

(↑上の写真)左=ヒヨドリバナ、中=オオバギボウシ、右=ヤブミョウガ

(↑上の写真)左=アキノタムラソウ、中=ウマノスズクサ、右=ワルナスビ

 ウマノスズクサ(馬の鈴草)はウマノスズクサウマノスズクサ属。「APG牧野植物図鑑スタンダード版」によると「本州から琉球列島、中国の温帯から暖帯の原野、河の堤、茶畑などに生える蔓性の多年草。茎や葉に臭気がある」と、あります。Web「野田市ウマノスズクサ」によると「全体に強い悪臭があり、 また有 毒で食べられません。 夏から秋にかけて、 葉わきにラッパをね じったようなかたちの花が次々と咲きます。 花にはいわゆる小 ハエの類がよく集まってきます。果実はぶら下がるようにつき、 その姿がまるで馬の首につける 鈴のように見えることから 「馬の鈴草」 の名前があります。 し かし結実率がきわめて低く、 めったに果実は見られません。ウマノスズクサは有毒で臭いもきつく、 昆虫には 不人気です。 それを好んで食べるのがジャコウアゲ ハの幼虫です。 ジャコウアゲハの幼虫は葉を食べ ながら体内にその毒を溜めこみ、 これで鳥などの 天敵から身を守っています。 鳥はジャコウアゲハが 毒持ちなのを学習するため、 手を出しません。 そこ で、 ジャコウアゲハの真似をして、 無毒なのに毒持 ちのフリをする昆虫 (アゲハモドキなど) もいます」ということで賢い虫がいるものですね。

 ワルナスビ(悪茄子)はナス科ナス属。「APG牧野植物図鑑スタンダード版」によると「ヨーロッパ原産。1930年頃(昭和初期)千葉県に入り、次第に広まり帰化している多年草」とあります。「日本帰化植物写真図鑑」によると「北アメリカ原産。明治初期に千葉県産三里塚に侵入し、そこから全国に蔓延った」とあり、「ウィキペディア」によると「日本では1906年(明治39年)に千葉県成田市御料牧場牧野富太郎により発見及び命名され、以降は北海道から沖縄まで全国に広がっている。1980年代頃から有害雑草として認識され、外来生物法により要注意外来生物に指定されている」という。日本に侵入した時期がそれぞれの本やWebで違うようです。花はナスにそっくりですが、葉の形は違いますね。それに如何にもワルという感じで茎にも葉にも刺が生えていて素手で触ろうものなら「痛たァ」と悲鳴を上げてしまいますよね。

(↑上の写真)どれもウバユリ、右=本葉がまだ着いているウバユリ

 ウバユリ姥百合)はユリ科ウバユリ属。関東以西の山野の林中に生える多年草。種子を播いてから花が咲くまで5年ほどかかります。カタクリのようにはじめ艶のある一葉を出し、次の年に二葉を出しというように徐々に栄養を蓄え、息の長い成長をしていきます。牧野植物図鑑によると「花の咲く時は、大抵は葉が枯れているので、花の時、葉〈歯〉がもうないことを、幼児の世話をする女が、娘が成人して、花の十八となったころには、もう歯の抜けた姥になるにたとえて、この名ができたという」とあります。湯浅浩史著「花おりおり」には「直立して幅広の大きな葉を展開するので、大きいという意のウバが冠せられた。ウバザメと同様の命名。俗説に、葉〈歯〉がなくなって咲くから、ウバユリ、というが、開花時には葉がある」と述べ、花の咲く時には葉がない、というのは俗説と退けています。今回、右の写真は、花が咲く頃にも葉がついている証拠として撮りましたが、その葉は枯れかかっている様でした。しかし、湯浅説が証明されているようでした。左の2枚の写真は、近寄れず葉が確認できませんでした。なお、ウバザメと命名されたのはウィキペディアによると、このサメが大きいからではなく「体側部にある非常に長い鰓裂を、老婆の皺に例えて名付けられたとされる」とあります。大きいからという湯浅説も怪しくなりますね。高名な先生方も結構怪しいところがあるものですね。

(↑上の写真)左=コブシの大木が並ぶ広場、中=スズメノヒエ、右=園路

(↑上の写真)左=木道の園路、中=ミズヒキ、右=コムラサキ

(↑上の写真)左=ハナイカダ、中=ゴンズイ、右=ニガカシュウ

(↑上の写真)左=お花畑、中=そのお花畑で咲いているクレオメ、右=百日草(ジニア)

飯盛山・・・令和4年7月13日

 野辺山高原平沢峠から登る飯盛山(1643m)に登ってきました。隣の見晴台だったところには大盛山という標識が立てられていました。大森山ではなく大盛山であるところが楽しいです。以前地元の方が言っておられました。飯盛山の飯は大盛に盛れよ、ということらしいです。いろいろな花が咲きはじめました。今日の様子です。

(↑上の写真)左=飯盛山登山の案内板、中=登り始めの登山道、右=カワラマツバ

(↑上の写真)左と中=ノリウツギ、右=ヤマアジサイ

(↑上の写真)左と中=シモツケ、右=シモツケソウ

(↑上の写真)左=ヤマオダマキ、中=チダケサシ、右=イブキトラノオ

(↑上の写真)左=カラマツソウ、中=ヒヨドリバナ、右=ウツボグサ

(↑上の写真)左=登山道から見下ろす野辺山高原、中=ノハナショウブ、右=ニッコウキスゲ

(↑上の写真)左=ニガナ、中=シロバナニガナ、右=ジシバリ

(↑上の写真)左=ヤマハハコ、中と右=ウスユキソウ

(↑上の写真)左=飯盛山、中=大盛山頂上、右=大盛山斜面のニッコウキスゲ

(↑上の写真)左=ノアザミ、中=グンナイフウロ、右=タカネナデシコ

 タカネナデシコ(高嶺撫子)はナデシコナデシコ属。「APG牧野植物図鑑スタンダード版」によると中部地方以北、北海道の高山帯の日当りのよい草地または岩石地に生える多年草ナデシコが高地で変種したということのようです。ナデシコの名前の由来は、「花の姿があまりにもかわいらしく、手で優しく子供を撫(な)でるように撫でたくなる」ことから「撫子」と名づけられたようです。タカネナデシコの花弁の先が糸のように細かく分かれているのが愛らしいくタカネナデシコの特徴となっていますね。

(↑上の写真)左=ノコギリソウ、中=ミヤマシシウド、右=大盛山からの風景(イブキトラノオシモツケニッコウキスゲの群落)

(↑上の写真)左=ヒメウツギ、中と右=コバノイチヤクソウ

 コバノイチヤクソウ(小葉一薬草)はツツジ科イチヤクソウ属。「APG牧野植物図鑑スタンダード版」によると「千島列島から北海道、本州の針葉樹林の林床に生える多年草」。イチヤクソウの小形化したものと思えばいいかも知れません。Web「日本薬学会HP」から引用・翻案しますと「イチヤクソウ(一薬草)は1つの薬草で諸病に効くことから「一薬草」の字が当てられたとする説があるが、定かではない。生薬としては血圧の降圧や抗菌などの作用があるとされている。イチヤクソウの根は、根毛が発達せず、内生菌根と共生することで栄養を得る菌根植物。この種子が芽を出すと根菌と呼ばれる菌類が根毛にまつわりつき、これに養われて育つ。従って、同科植物の移植栽培は難しいとされている」ということです。

獅子岩(野辺山平沢峠)・・・令和4年7月13日

 野辺山平沢峠の獅子(しし)岩を訪れました。飯盛山の登山口になっていますが、フェンスで獣害から保護されるようになって数年。山野草が復活してきました。今日の様子です。(写真をクリックすると拡大されます。)

(↑上の写真)左=平沢峠標識、中=ナウマン博士がここを訪れ、フォッサマグナを想起されたという解説板、右=フェンスで保護された獅子岩野草園

(↑上の写真)左=獅子岩、中=獅子岩の解説板(獅子岩新生代第三期<200万年以前>の火山活動の火山岩類で構成されているという解説)、右=カラマツソウ 

(↑上の写真)左=キリンソウ、中=カワラマツバ、右=オオバギボウシ

 キリンソウ麒麟草)はベンケイソウ科キリンソウ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「北海道、本州、四国、九州、および沿海州朝鮮半島、中国の暖帯から温帯の山地や海岸の近くの乾いた岩の上に生える多年草」。「牧野新日本植物図鑑」には「麒麟草は何の意味であるか不明」とあります。湯浅浩史著「花おりおり」には「キリンソウは黄輪草がぴったり」と、書かれています。考案すると、花が植物体のてっぺんに、輪状に付くのでふつうに「黄輪草」と呼んでいたのが、のちに、中国の伝説の「麒麟」に因んで「麒麟草」と書かれるようになったのではないでしょうか。伝説の(ビールの)麒麟とは何の関係もないはずです。

(↑上の写真)左=ニッコウキスゲ、中=コウゾリナ、右=オカトラノオ

 ニッコウキスゲ(日光黄萓)はススキノキ科ワスレグサ属(旧ユリ科)。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「近畿地方以北、北海道、および南千島、サハリンの山地の草原に群生する多年草。葉は2列に扇形に出て、上半分は湾曲して垂れる。花は初夏に咲き、花茎を1本出し、昼間だけ花を開く。この種は標準和名を禅庭花と呼ぶが、花に短柄があるものを特にニッコウキスゲという」とあります。湯浅浩史著「花おりおり」には「標準和名のゼンテイカよりもニッコウキスゲの名で親しまれている。高原の夏を黄色く彩り、特に尾瀬が有名。花は一日だけ咲くとよく言われていたが、実際は二日花で、朝さいて翌日の夕方萎む。似た花のユウスゲは、夕方咲いて翌日午前中に萎む」とあります。

(↑上の写真)左=シモツケソウ、中=チダケサシ、右=ヒヨドリバナ

 シモツケソウ(下野草)はバラ科シモツケソウ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「本州、四国、九州の山地に生える多年草。花は初夏から夏に咲く。和名の下野草は花がシモツケに似ている草の意味」とあります。シモツケは小低木の木本、シモツケソウは草本シモツケ(木本)が下野国(栃木県)で見つけられたので下野(シモツケ)と名づけられたと言います。霜が降りたような感じの花なので「霜付け」かと思っていましたが、「下野」ということです。

美し森・・・令和4年7月11日

 美しの森は、諸国の神々が瑞穂の国の中ほどにあるここ斎の杜(いつくしのもり)に年に一度集まり国を治める話し合いをしたということですが、斎の杜がいつしか美し森と呼ばれるようになったという謂れのあるところです。傍の湿地では、九輪草が咲き終わり、今はコバイケイソウが咲いています。今日の様子です。

(↑上の写真)左=登山口、中=ウツボグサ、右=ノハナショウブ

 ウツボグサ(靭草)はシソ科ウツボグサ属。日本各地の日当たりのよい山野の草地に生える多年草。『牧野富太郎植物記2』によると「茎はシソ科なので四角で丈夫。花穂の形が矢を入れる靭に似ているので靭草と言われる。この花穂が夏には枯れてそのまま立っているので夏枯草(かこそう)と呼ばれる」とのことです。澤田ふじ子著『無明記』には、寂し気な花として靭草が出てきます。知多半島佐治水軍を率いる父の優柔不断により妻(江、小説では小督=こごう)は離縁し三代将軍家光の生母にもなるが、残された娘二人は寂しい人生を送ることになる。「姉(おきた)は靭(うつぼ)の花が好きでございました。その日も、姉は婢のはぎを供に連れて、靭の花を摘んでくると、わたくし(おぬい、盲目)の居間の床にある胡銅の花生けにたくさん活けてくれました。明り障子のそばにそれが置かれると、花の色が、わたくしの眼に、ぽっと見えるようでございました」と。人生、優柔不断は良い結果を生まないようでした。

(↑上の写真)左=ヤマオダマキ、中=ニガナ、右=シロニガナ

(↑上の写真)左=ヒヨドリバナ(これからが開花の時期)、中=ノコギリソウ、右=タカトウダイ

 ヒヨドリバナ(鵯花)はキク科ヒヨドリバナ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「北海道から九州、さらに朝鮮半島、中国大陸の温帯から暖帯に分布し、山地の乾いたところに生える多年草。高さ1~2m。フジバカマに似ているが、地下茎は横に這うことは無い。香気は少ない。花は夏から秋。和名はヒヨドリが鳴く頃咲くことに因む」とあります。また、諏訪教育会著「諏訪の植物」には「ヒヨドリバナは、山地に生える多年草で、葉に柄があり、対生。葉が4枚(3枚也5枚のものもある)あって輪のようにつくヨツバヒヨドリがあり、山地の湿地に生え、葉に柄がなく対生のサワヒヨドリがある」ということです。「Web:e-yakusou.com」に、ヒヨドリバナの名の由来をヨツバヒヨドリの項で解説して「花は、小さな管のように集まり、それが枯れると良く燃えて、火熾し(ひおこし)の材料になるから、火熾し(ひおこし)から、火を取る(ひをとる)に転嫁して、ヒヨドリの名になった」とあります。ヒヨドリの鳴く頃に咲くからか、火起こし(火熾し)からか、どうでしょうか。

(↑上の写真)左=ニッコウキスゲ、中=チダケサシ、右=オオヤマフスマ

(↑上の写真)左=ノリウツギ、中=シモツケ、右=リョウブ

(↑上の写真)左=美し森(1542m)、中と右=コバイケイソウ

(↑上の写真)左=クリンソウ(実)、中=サワギク、右=ノアザミ

(↑上の写真)左=工事で直登できず左の巻き道、中=カラマツ、右=カワラマツバ

 

 

 

 

武蔵国分寺万葉植物園・お鷹の道・都立武蔵国分寺公園・・・令和4年7月5日

 台風接近ですが、曇り空で、気温も平年並みということで、出掛けました。この時期、自然の中では、山野草の花は少なく、期待するのは無理なことです。しかし、万葉植物園でタシロランが観察できたのは、とっておきの収穫でした。今日の様子です。

(1)武蔵国分寺万葉植物園にて

(↑上の写真)左=武蔵国分寺山門、奥が武蔵国分寺、中=万葉植物園の由来書き、右=万葉植物園入口

(↑上の写真)どれもタシロラン

 タシロラン(田代蘭)はラン科トラキチラン属。APG牧野植物図鑑によると、関東地方以西から琉球列島の暖地の林下や陽地に稀に見られる無緑葉の菌根植物という。Web「武田良平のブログ」によると「明治39年 田代善太郎氏により、長崎県諫早で発見され、タシロラン(ラン科)の名がつけられました。梅雨時に、葉緑素をもたない、モヤシのような花茎を地上にのばし、いきなり花を咲かせ、実を結び、姿を消してしまう無葉ランの一種です。そのため、人の目に触れることは少なく、また、花は小さく地味なため、ほとんど知られていません。暖地の環境を好み、三浦半島観音崎が、自生地として知られています(一部省略翻案)」ということです。武蔵国分寺境内のここ万葉植物園で見られたのは、この時期、ほとんど他の花がないので訪れる人もなく、奇遇でした。

(2)お鷹の道にて

(↑上の写真)左=ヤブミョウガ、中=ヤブカンゾウ、右=真姿の池弁天様

(↑上の写真)左=エナシヒゴクサ、中=ムサシアブミ、右=ハエドクソウ

(↑上の写真)左=イノデ、中=フモトシダ、右=リョウメンシダ

(3)武蔵国分寺公園にて

(↑上の写真)左=ヤマハギ、中=ヤブラン、右=野鳥の森入口

(↑上の写真)左と中=ヤブミョウガ、右=ミョウガ

 ヤブミョウガ(薮茗荷)はツユクサヤブミョウガ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によれば「宮城県以南から九州、および台湾、中国の暖帯の林や藪に生える多年草」とあります。花を食すミョウガはショウガ科で名前は似ていますが別物です。観察してみるとヤブミョウガの葉は艶がありますが、葉の先から茎の方にしごくととてもざらつきます。花径も同じくざらつきますが、茎は丈夫そうでもあり、滑らかでもあります。葉は互生し、一見十字対生のように輪状に広がってつきます。ミョウガは茎の両側に並列につき、ヤブミョウガほど立体感はありません(上掲写真)。花には両性花と雄花があり、前者は白い雌しべが目立ち、後者は黄色い葯の付いた雄しべが目立つといわれます。この時期、花をたくさん咲かせていますので判別に挑戦してみる適期です。

(↑上の写真)左=クサノオウ、中=マルバルコウソウ、右=ヤブカラシ

 マルバルコウソウ(丸葉縷紅草、丸葉留紅草)は、ヒルガオ科サツマイモ属。熱帯アメリカ原産、江戸末期に渡来したつる性の1年草という。Web「みんなの趣味の園芸」によると「熱帯の原産地では多年草ですが、日本では冬に枯れてしまうので1年草として扱われる」ということです。また、同書によると名称を「マルバルコウソウ」ではなく「マルバルコウ」としています。ルコウソウの葉が葉脈のみを写したレントゲン写真のような葉であるのに対してマルバルコウソウの葉は写真のようにサツマイモの葉のような大きな心臓形をしています。花は、これから夏から秋にかけ、葉腋に3~5個の写真のような上から見ると五角形の花を開きます。

(↑上の写真)左=ノウゼンカズラ、中=公園泉地区風景、右=サービスセンター

(↑上の写真)左=ハナゾノツクバネウツギ(アベリア)、中と右=ウラジロチチコグサ