野楽力研究所

近くの自然で野楽力を高めましょう

東京都多摩地区東部街中自然観察・・・令和8年7月24日

 梅雨明け10日の日照りが続いています。草花も園芸種を除けば花はぐっと少なくなりました。僅かな地面を見つけてへばりついている草々から、水が欲しい、という声が聞こえてくるようです。そのような折、曇りの時間帯を見計らって街中の自然観察に出かけました。スイフヨウ、ムクゲ、ノウゼンカズラが咲いていました。今日の街中の草花の様子です。(写真をクリックすると拡大されます)

(↑上の写真)いずれもスイフヨウ(酔芙蓉)

 スイフヨウ(酔芙蓉)はアオイ科フヨウ属。今回は雌しべ、雄しべのつくりに注目します。上掲、中のアップ写真を見てください。雌しべと雄しべは「単体雄蕊(たんたいゆうずい)」と呼ばれるアオイ科特有の非常にユニークな合着構造をしています。多数ある雄しべの花糸(かし:花粉袋を支える柄)が根元で互いにくっつき合い、1本の筒(雄しべ筒)を作っています。この筒の表面から、ブラシのようにたくさんの黄色い葯(やく:花粉を入れる袋)が外側に向かって突き出ています。雌しべの細長い軸(花柱)は、雄しべが作った筒の中を貫通して伸び、雌しべの先端(柱頭)は5裂し、上向きに曲がって飛び出しています。5裂した柱頭には、花粉がつきやすいように細かい毛(繊毛)が密生しています。(Web『AI』を参照、翻案)

(↑上の写真)いずれもムクゲ(木槿)

(↑上の写真)左=ノウゼンカズラ(凌霄花)。中と右=アメリカノウゼンカズラ(亜米利加凌霄花)

 アメリカノウゼンカズラ(亜米利加凌霄花)はノウゼンカズラ科ノウゼンカズラ属。北米が原産地で日本には大正時代に渡来したといわれます。在来(元々は中国渡来)のノウゼンカズラとアメリカノウゼンカズラとの区別は「アメリカのそれは花筒が長い割に、花の径が小さい、在来のものはその逆」というような区別でした。今回は萼に注目して、アメリカノウゼンカズラは萼が花筒と同じ赤みを帯びていますが、在来のノウゼンカズラの萼は緑色をしています。この区別の仕方はどうでしょうか。

(↑上の写真)左=サルスベリ(猿滑り、百日紅)、中=スズランノキ(鈴蘭の木)、右=シマトネリコ(島戸練子・島戸錬子)

 シマトネリコ(島梣、島秦皮)はモクセイ科トネリコ属。シマトネリコのシマは原産である沖縄などの南の島を指して名づけられたそうです。 トネリコ(戸錬子)自体の由来は、諸説あるそうです。一つは、樹皮につく虫が分泌する白ロウを、戸の滑りをよくするため戸の溝に塗ったトヌリキがトネリコに変化したという説。もう一つは、写径を行う際に、本種の皮を煮て膠(にかわ)状にして、そこに墨を混ぜて練ったものを使ったことから、トモネリコ(共練濃)がトネリコに変化したという説などが紹介されています。最近は建売住宅の玄関脇に植えられたり、カブトムシが寄りつく木として有名になったりしています。(各種Webなどを参照)

(↑上の写真)左と中=オシロイバナ(白粉花)、右=ペラペラヨメナ(ぺらぺら嫁菜)=ゲンペイコギク(源平小菊)

 オシロイバナ(白粉花)はオシロイバナ科オシロイバナ属。『APG牧野植物図鑑』によると「南アメリカ原産。古くに日本に渡来し観賞用に栽培され、逸出したものが野生化している多年草」とあります。ラッパ状をした花びら(花冠)のように見えるものは萼片で、花冠の根元にある萼のような緑色のものは総苞だそうです。湯浅浩史著『花おりおり』 によると「午後4時ころに花が開く。香りは甘く、夜間も漂う。開花時刻に活動している昼間の昆虫は、多彩な色で昆虫を惹きつけ、夜の花は香りで昆虫を誘う。効率の良い花だ。丸い実のような種子は、つぶすと白い粉状の胚乳が出て来る。そのことから江戸時代の博物学者、貝原益軒は「白粉花(おしろいばな)と名づけた(一部翻案)」ということです。子どもの頃、この白粉を鼻につけて遊んだことがある人もいると思います。夕方から夜にかけて開花するので日中は萎んだようになっています。

(↑上の写真)左=メヒシバ(雌日芝)、中=エノコログサ(犬の子草、狗尾草)、右=マメグンバイナズナ(豆軍配薺)

 エノコログサ(狗尾草)はイネ科エノコログサ属。杉村昇著『名前といわれ野の草花図鑑』によると「エノコ(狗)とは子犬のことで、ロとは尾(お)の訛ったもの。花穂がやわらかく風になびく姿を、子犬の尾に見立てての名前です。別名をネコジャラシ(とくに関東地方で呼ばれる)といい、これは花穂でネコ(猫)をじゃらす、という意味です」ということで名前の由来が分かりました。今回は、エノコログサが夏の日照りの中で萎れもせず育っているわけを農研機構農業環境変動研究センター生物多様性研究領域 吉村泰幸著『C4 植物のきた道』やWeb『AI』を参考にして考えてみました。その秘密はエノコログサがC4植物と言われる植物だからだそうです。C4植物と言われるトウモロコシ・サトウキビ、エノコログサなどは乾燥に非常に強い組織を持っているそうです。普通、植物は光合成をするために気孔を開いて二酸化炭素を取り入れます。しかし、気孔を開くと水分もそこから逃げ出してしまいます。C4植物は気孔を開いた時に取り入れた二酸化炭素を濃縮させることができるので、一度にたくさんの二酸化炭素を取り入れることができます。そのため気孔を開く回数を減らすことができ、水分の蒸散を防ぐことができます。エノコログサをはじめC4植物が乾燥した夏の炎天下で萎れることなく元気なのはそのためということです。

(↑上の写真)左=ノゲシ(野芥子・野罌粟)、中=ヤイトバナ(灸花)=ヘクソカズラ(屁糞葛)、右=ヨウシュヤマゴボウ(洋種山牛蒡)

 ヤイトバナ(灸花)=ヘクソカズラ(屁糞葛)=アカネ科ヘクソカズラ属。『APG牧野植物図鑑』によると「日本各地及び朝鮮半島、中国、フィリピンなどの温帯から熱帯に分布。荒地や山野の草地に生える多年草」とあります。田中修著『かぐわしき植物たちの秘密』に「蔓が伸びて、小さな葉が繁茂した後、夏に、漏斗形の小さな花が咲きます。「ヤイトバナ」ともいわれるように、花の中央に灸(やいと)の痕のような赤味があります。「サオトメバナ」とも呼ばれます。悪臭の成分は「メルカブタン」という物質です。万葉集には「クソカズラ」として出てきます。江戸時代に「ヘ」がついてヘクソカズラとなります。傍にいても何も匂わないのに、葉を少し揉めば香りが出てきます。葉の香りは、虫や動物が葉をかじった時に、葉が身を守るために発散させるものです。葉を齧った虫や動物にとって、ヘクソカズラの発散するメルカブタンは耐えられないものなのです」と紹介されています。なお、野楽力研究所ではヘクソカズラと呼ばずにヤイトバナと呼ぶよう推奨しています。

(↑上の写真)左=スベリヒユ、中=チチコグサモドキ(父子草擬)、右=ヒメムカシヨモギ(姫昔蓬)

(↑上の写真)左=ミソハギ(禊萩)、中=メドウセージ(サルビア)、右=カサブランカ(ユリ)

(↑上の写真)左=ニチニチソウ(日々草)、中=サマーポインセチア=ショウジョウソウ(猩猩草)、右=キバナコスモス(黄花秋桜)

(↑上の写真)左=マサキ(柾)の蕾、中=シラカシ(白樫)の実(未熟)、右=カキ(柿)の実(未熟)

 シラカシ(白樫)はブナ科コナラ属。山渓カラー名鑑『日本の樹木』によると、福島。新潟県以西の本州、四国、九州、朝鮮(済州島)、中国に分布、とあります。上掲写真に、この時期の未熟なシラカシのドングリが写っていますが、ここで、シラカシの雄花、雌花について考えてみます。シラカシの花は新芽が伸びる4月〜5月頃に開花し、風によって受粉する風媒花です。その年の10月〜11月頃にドングリ(実)を実らせる「1年成(せい)」の植物で、一つの木に雄花と雌花がそれぞれ別々に咲く雌雄同株。雄花は新しく伸びた枝の基部から、長さ5〜15cmほどの緑黄色のクリのような花穂がいくつも垂れ下がります。雌花はその年に新しく伸びた枝の先の方にある葉の葉腋に咲きます。非常に小さな緑色のツブツブ状の花で、目立ちません。雄花から大量に放出された花粉が風に乗って雌花の先端(柱頭)に付着することで受粉が行われます。受粉に成功すると、雌花のもとの部分(子房)がゆっくりと膨らみ始め、その年に実が成熟します(1年成)。ブナ科の仲間には、他に受粉してから実が熟すまでに2年かかる(2年成)マテバシイやスダジイなどもあります。(Web『AI』などを参照、翻案)

(↑上の写真)左=ヒメイワダレソウ(姫岩垂草)、中=マンネングサ(万年草)、右=ハツユキカズラ(初雪葛)

(↑上の写真)左=ヒルザキツキミソウ(昼咲月見草)、中=オレガノ=ハナハッカ(花薄荷)、右=ヒメヒマワリ(姫向日葵)

(↑上の写真)左=タケニグサ(竹似草、竹煮草)、中=アベリア=ハナゾノツクバネウツギ(花園衝羽根空木)、右=ノリウツギ(糊空木)の園芸種

 

武蔵国分寺資料館前庭(おたかの道湧水園)・・・令和8年7月20日

 特に目立つ花の時期ではありませんが、緑陰とこの時季ならでは植物、ハンゲショウ、ウマノスズクサの花など観賞し、濃い緑を愉しみました。ゆっくり鑑賞して40分、入場券(100円)を購入する『おたカフェ』で冷たいものをいただきました。今日の前庭(湧水園)の様子です。(武蔵国分寺資料館はJR西国分寺駅から南東へ徒歩30分、武蔵国分寺の湧水路並びです)

(↑上の写真)左=入口(旧本多家長屋門)、中=奥の白い建物は資料館、手前が前庭で湧水園、右=創建当時の武蔵国分寺にあったとされる七重の塔の模型

(↑上の写真)左と中=ハンゲショウ(半夏生)、中=花のアップ、右=園内の風景

 ハンゲショウ(半夏生)はドクダミ科ハンゲショウ属。本州以南に分布する水辺に生える多年草ということです。夏(げ)というのは仏語で「僧が一所に籠って修行する期間(90日間)」のことだそうで、半夏(はんげ)とは夏(げ)の半分(45日間)、現在の暦で夏至の日から11日目の7月2日だそうです。修行の半分、半夏を終えたということです。ハンゲショウは、葉の半分が白く化粧をしたようになるので、半分化粧した「半化粧」と仏語の「半夏」を掛けて、半夏生と名づけられたといいます。白く化粧した部分は盛夏には緑に戻りますので、気づかずに見過ごしてしまいます。今年は気に留めておきたいですね。上掲写真(左)でも白い葉が緑に変り始めているようです。

(↑上の写真)左と中=ミズヒキ(水引)、中の写真は横向きで左が上側で赤く、右が下側で白いことが分かります。この上下の赤白が水引の赤白に似ているというもの。右=ヒヨドリジョウゴ(鵯上戸)の花。

 ヒヨドリジョウゴ(鵯上戸)はナス科ナス属。『APG牧野植物図鑑』によると「東アジアの熱帯から温帯に広く分布し、北海道から琉球の山野の道端などに生える多年草。茎は細長く蔓状で、全体に腺毛が多い。葉は長さ3~8cm、下部の葉は1~2対の切れ込みがある。葉柄は他物に絡む。花は夏から秋、5枚の花びらは初め径1,5cm位に開き、後方に反り返る。果実は径8mmくらい。和名鵯上戸は鵯(ヒヨドリ)が熟果を好んで食べることに基づく。有毒植物」とあります。ヒヨドリジョウゴについては、可愛らしい赤い実が有名で、花のつくりについてはそれほど詳しく述べられていません。実については秋にふれることにし、上掲写真をもとに花について調べてみたいと思います。5個の雄しべの 花糸(軸)は太くて短く、 花粉が出る葯は黄色をしていて、5本が合着している構造になっているとのことです。 5本の合着した雄しべの黄色い葯が、中央にある雌しべの周りをぴったりと取り囲んでいます。 葯が熟すと、上部の先端に小さな穴(孔)が開き、そこから花粉をばらまきます。雌しべは白く細い棒のような姿をしていて 合着した雄しべの真ん中を通り抜け、外側へ長く突き出させています。雌しべを雄しべよりも前方に長く突き出させることで、自分の花粉が同じ花の雌しべに直接触れないようにして自家受粉を避ける工夫をしているということです。小さい花の中に実に巧みな工夫がされていることに驚きますね。(Web『AI』などを参照) 

(↑上の写真)左=ウマノスズクサ(馬の鈴草)、中=センリョウ(千両)、右=マンリョウ(万両)

 ウマノスズクサ(馬の鈴草)はウマノスズクサ科ウマノスズクサ属。『APG牧野植物図鑑』によると「本州から琉球列島、中国の温帯から暖帯の原野、河の堤、茶畑などに生える蔓性の多年草。茎や葉に臭気がある」と、あります。Web『野田市:ウマノスズクサ』によると「全体に強い悪臭があり、 また有 毒で食べられません。 夏から秋にかけて、 葉わきにラッパをね じったようなかたちの花が次々と咲きます。 花にはいわゆるコバエの類がよく集まってきます。果実はぶら下がるようにつき、 その姿がまるで馬の首につける 鈴のように見えることから 「馬の鈴草」 の名前があります。 し かし結実率がきわめて低く、 めったに果実は見られません。ウマノスズクサは有毒で臭いもきつく、 昆虫には 不人気です。 それを好んで食べるのがジャコウアゲ ハの幼虫です。 ジャコウアゲハの幼虫は葉を食べ ながら体内にその毒を溜めこみ、 これで鳥などの 天敵から身を守っています。 鳥はジャコウアゲハが 毒持ちなのを学習するため、 手を出しません。 そこ で、 ジャコウアゲハの真似をして、 無毒なのに毒持 ちのフリをする昆虫 (アゲハモドキなど) もいます」ということで賢い虫がいるものですね。馬の鈴草の名前の由来の実を見てみたいですね。めったに果実は見られません、と言うことですから何とか今年の秋には期待したいですね。

(↑上の写真)左と中=サンショウ(山椒)の実、右=ムサシアブミ(武蔵鐙)の青実

(↑上の写真)左=カラムシ(苧)、中=ミドリヒメワラビ(緑姫蕨)、右=ホシダ(穂羊歯)

【↓以下道すがらの自然観察】

(↑上の写真)左=ムラサキツメクサ(紫詰草)、中=ジニア(百日草)、右=ムラサキバレンギク(紫馬簾菊)

(↑上の写真)左=シュウカイドウ(秋海棠)、中=カッコウアザミ(藿香薊)、右=シモツケ(下野)

(↑上の写真)いずれもノウゼンカズラ(凌霄花)右=奇数羽状複葉の葉

(↑上の写真)左=ヤブミョウガ(藪茗荷)、中=オニユリ(鬼百合)、右=ノシラン(熨斗蘭)

(↑上の写真)左=ヤブソテツ(藪蘇鉄)、中=ゲジゲジシダ(蚰蜒羊歯)、右=ミドリヒメワラビ(緑姫蕨)

 

都立殿ヶ谷戸庭園・・・令和8年7月13日

 ヤマユリ、オニユリ、カワラナデシコ、オミナエシが咲いているというので訪れました。ゆっくり散策し草花や庭園を愛で紅葉亭でゆっくり休息して小一時間です。今日の庭園の様子です。(JR中央線国分寺駅下車、南口から東へ徒歩2分) 

(↑上の写真)左=入口、中=中門、右=紅葉亭(休息所) 

(↑上の写真)いずれもヤマユリ(山百合)園内随所に咲いています。

(↑上の写真)いずれもオニユリ(鬼百合)、右=オニユリの証拠のムカゴ

 オニユリ(鬼百合)はユリ科ユリ属。『APG牧野植物図鑑』によると「もとは中国原産で古い時代に伝来したものが栽培中に逸出して野生化したと考えられる多年草。対馬には、真の野性もある。葉腋にムカゴ(栄養体)を作る。花は夏。和名は巨大な百合の意」という(一部翻案)。「オニユリは染色体の数が3倍体で種子を作ることができないので葉腋にできるムカゴのみで繁殖し、種子を全くつくらない」という(Webや各種資料参照)。オニユリとコオニユリは似ていますが、ムカゴがついていればオニユリということになります。

(↑上の写真)いずれもカワラナデシコ(河原撫子)

 カワラナデシコ(河原撫子)の本当の和名はナデシコ(撫子)。『APG牧野植物図鑑』にはナデシコとして記載されています。ナデシコ科ナデシコ属。別名にカワラナデシコ(河原撫子)、ヤマトナデシコ(大和撫子)があるとされます。同図鑑によると「日本各地および朝鮮半島、中国の温帯から暖帯の山野に生える多年草。花は夏から秋、淡紅色。秋の七草の一つ」とあります。ナデシコの名前の由来は、花の姿があまりにもかわいらしく、手で優しく子供を撫(な)でるように撫でたくなることから「撫子」となったといわれています。別名の大和撫子は、見た目丈夫そうなカラナデシコ(唐撫子)に対して如何にもしおらしいというのでヤマトナデシコ(大和撫子)といわれているそうです。カラナデシコはセキチク(石竹)のことです。(深津正著『植物和名の語源』も参照)

(↑上の写真)いずれもオミナエシ(女郎花) 

 オミナエシ(女郎花)はスイカズラ科オミナエシ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「北海道から九州の日当りのよい山野に生え、東アジアの温帯から暖帯に分布する多年草。根茎は太く横に伏し、株わきに新苗が分かれて繁殖する。和名はオトコエシに対し優しいので女性にたとえて言う」とあります。丸山尚敏著「しなの植物考」には「稼ぎ頭の男が白米を食い、家を守る女が粟や稗を食べる。数多くつける小さな白い花を米花と呼び、白米に見立てて男飯(オトコメシ)、黄の粒つぶの花を粟花と呼び、粟や稗に見立てて女飯(オミナメシ)と呼んでいたものが変化してオトコエシ、オミナエシになったという説が紹介されています。森鴎外著『雁』に「(お玉が)土曜日に上条から父の所へ帰ってみると、もう二百十日が近いからと言って、篠竹をたくさん買ってきて、女郎花やら藤袴やらに一本一本それを立て副えて縛っていた」と、嵐に備える秋の風情が描かれています。

(↑上の写真)いずれもオオマツヨイグサ、右=参考写真・・・日中には萎んでしまうので、他の場所で夕方開花直後に撮影したもの

 オオマツヨイグサ(大待宵草)はアカバナ科マツヨイグサ属。『APG牧野植物図鑑』によると「北アメリカ原産の帰化植物。明治初年(1870年頃)日本に渡来し、各地の草原、河原や道端に広く生える2年草。茎は高さ1、5m位で毛がある。根生葉は地面に張りついてロゼットをつくる。花は夏、夕方咲き、翌朝しぼむ。萼は4片で2片ずつつき、花が開く時には外側へ反る。ツキミソウは白花で別種。和名はマツヨイグサより大形の意」ということです。湯浅浩史文『花おりおり』には、「誤解される花である。ツキミソウと思われているが、その花は白い。マツヨイグサの類は黄花が咲く。太宰治も『富嶽百景』で「富士には、月見草がよく似合ふ」と間違えた。夏は日没後、4枚の花弁が、かすかに音を立てて開く。20世紀の初め、ド・フリースはこの類で突然変異を研究した」とあります。(註1)作中の有名な一節「富士には、月見草がよく似合ふ」の直前には、「黄金色の月見草の花ひとつ」という描写がある。この「黄色い花」という特徴が、オオマツヨイグサを指している最大の根拠です。(註2)ド・フリースは、オオマツヨイグサを使ったこの研究で1901年に、生物は段階的ではなく突発的に進化するという「突然変異説」を唱えました。(いずれの註もWeb『AI』を参照翻案)

(↑上の写真)左と中=ギボウシ(擬宝珠)、右=次郎弁天池の紅葉亭からの眺め

(↑上の写真)左=ツワブキ(石蕗)、中=モウソウチク(孟宗竹)林、右=次郎弁天池に注ぐ崖線の湧水(水温は通年17~18℃だそうです)

科博附属自然教育園・・・令和8年7月10日

 日差しが暑くなりました。緑陰の多い所を求め、お弁当をもって白金の科博附属自然教育園を訪れました。木陰が多く、平日でしたので訪れる人も少なく、ゆっくり観察できました。ここでオカトラノオとヌマトラノオの交雑種イヌヌマトラノオが観察できました。ミソハギ、チダケサシ、ヤマユリ、ノカンゾウ、ヤブカンゾウなどの花が見られました。今日の自然教育園の様子です。(科博附属自然教育園はJR山手線目黒駅下車目黒通りを東、白金方面へ徒歩10分)

(↑上の写真)左=科博附属自然教育園入口、中=オオバギボウシ(大葉擬宝珠)、右=ギボウシ(擬宝珠)

(↑上の写真)左=オカトラノオ(丘虎尾)、中と右=イヌヌマトラノオ(犬沼虎尾)

 イヌヌマトラノオ (犬沼虎尾)はサクラソウ科オカトラノオ属。「オカトラノオ」と「ヌマトラノオ」の自然交雑種ということです。ここ科博付属自然教育園の水生植物園では、以前はオカトラノオが優勢だったようですが、今ではイヌヌマトラノオに逆転されたようです。オカトラノオより矮性で水分の多いところで育っています。

(↑上の写真)いずれもミソハギ(禊萩)

 ミソハギ禊萩)はミソハギ科ミソハギ属の多年草。『APG牧野植物図鑑』によると「日本各地及び朝鮮半島の暖帯から温帯に分布し、野原や山の麓に湿ったところに生え、また仏前に供える花(盆花)として栽培される多年草」ということです。ちょうどお盆の頃咲くので盆花とされ、ご先祖が戻ってこられる依り代として用いたり、禊萩を濡らして払い、その雫で身や供え物を清めたりしたということです。和名は禊萩(みそぎはぎ)が略されて「ミソハギ」になったということです。東京のここ科博附属自然教育園では今咲いていますので、東京のミソハギは7月盆・新盆にはいいかも知れません。新潟県長岡市にある「雪国植物園」発行の「雪国植物園の花々300選」では、7月下旬から9月上旬がミソハギの花の時期ということですので、雪国では旧盆でOKのようです。

(↑上の写真)左=チダケサシ(乳茸刺)、中=タカトウダイ(高燈台)、右=ハンゲショウ(半夏生)

 タカトウダイ(高燈台)はトウダイグサ科トウダイグサ属。北海道を除く日本各地の山地や丘陵地に生える多年草。茎から出る白い汁は有毒。トウダイは船の安全を守るいわゆる燈台ではなく、昔、明かりを灯した燭台のこと、ということです。『牧野新日本植物図鑑』によると「茎の先の5葉の披針形の葉を輪生し、5本の枝が傘状に分立する。苞葉は小さく卵形または広菱形、夏に黄緑色の花を開く」とあります。上掲写真を見るとそのようです。因みにWeb『京都府レッドデータブック2015』によると「本州、四国、九州、朝鮮半島、中国大陸に分布し、京都府では絶滅危惧C(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)」ということです。東京都の最新のレッドリスト(保護上重要な野生生物種)において、タカトウダイは、区部では「野生絶滅(EW)」、北多摩・南多摩地区では「絶滅危惧Ⅱ類(VU)」に指定されています。

(↑上の写真)左と中=ノカンゾウ(野萱草)、右=ヤブカンゾウ(藪萱草)

(↑上の写真)左=ヤマユリ(山百合)、中と右=シロネ(白根)

 ヤマユリは日本の固有種です。徳富蘆花著『自然と人生』の「夕山の百合」に「夕方後山に登る。夕風青茅を戦(そよ)がせて、百合の花の香、其処はかとなく漂ひ、丘上にしょんぼり月の影あり。……暮れて、山を下れば、径(みち)を夾(さしはさ)む青茅の一色の青黒きに、点々たる百合の花、朧夜の星の如く、ほの白う暮れ残りぬ。風そよそよとして、夕山の香、袂に満つ。山の端に月、光り初(そ)めぬ」と日本の自然の風景と情緒が思い切り描写されています。

  シロネ(白根)はシソ科シロネ属。『APG牧野植物図鑑』によると「東アジアの温帯から暖帯に分布。北海道から九州まで各地の池や沼の水辺に生える多年草」ということです。山渓カラー名鑑『日本の野草』によると「地下茎が太くて白いのでシロネ(白根)の名がある。水辺に生える1mほどの多年草。葉は対生し、広披針形で長さ8~15cm、幅1,5~4cm、光沢があり、縁に鋸歯がある。葉の腋に白色で小形の唇形花つける。花冠は長さ5mm、萼は長さ4~5mmで5中裂し、裂片は細く、先端は鋭く尖る。花期は8月~10月」とあります。温暖化の影響でしょうか、開花が早まっているようです。

(↑上の写真)左=ヤブミョウガ(藪茗荷)、中=ツルニガクサ(蔓苦草)、右=ヤブマオ(藪苧麻)

 ヤブマオ(藪苧麻)はイラクサ科ヤブマオ属。『APG牧野植物図鑑』によると「北海道、本州、四国、九州、および中国の温帯に分布。山野に普通に生える多年草。高さ1m位。葉は長さ10~19cmで厚く、ひどくざらつき、茎とともに細毛がある。花は秋、葉腋から長さ10~20cmの花序を抜き出し密に雌花をつける。ふつう雄花をつけず(雌花ばかりで)無融合生殖によって種子を結ぶ。和名藪苧麻は藪の縁に生えるからいう」とあります。無融合生殖というのは無性生殖型の一つで、無性生殖では、配偶子が受精を介さずに単独で発芽・分裂して次世代の個体が発生すること。雌個体から生まれる子供は雌親のクローンなので、雌ばかりで無性生殖型の雌の割合は次第に増えて、やがて(雌が)集団全体を占めるようになる」と考えられているそうです。ちょっと不思議なことが起こっているようです。全部が全部、無融合生殖というわけではないようですので、大丈夫のようでもあります。

(↑上の写真)左=ミズヒキ(水引)、中と右=ユウガギク(柚香菊)

(↑上の写真)左=ウバユリ(姥百合)蕾の状態、これから開花、中=ヒメガマ(姫蒲)、右=クサガメ(草亀)もいる水鳥の沼

(↑上の写真)いずれも実の状態の左=ホウチャクソウ(宝鐸草)、中=ムサシアブミ(武蔵鐙)、右=ムラサキシキブ(紫式部)

(↑上の写真)いずれもシダ(羊歯)、左=ホシダ(穂羊歯)、中=ミゾシダ(溝羊歯)、右=ミドリヒメワラビ(緑姫蕨)

(↑上の写真)いずれも昆虫、左=ナナフシ(七節)、中=ヒオドシチョウ(緋縅蝶)、右=コミスジ(小三条蝶)

 

都立長沼公園・・・令和8年7月6日

 都立長沼公園を訪れました。訪れる人はほとんどなくゆっくり観察できました。アカメガシワの雌木があり、雌花を見ることができました。牧野記念庭園で雄木、雄花を見ましたので、これで雌雄を確認できました。オカトラノオが頂上付近の尾根沿いに満開でした。ヒヨドリバナが咲き始めました。ヤマユリはたくさんありましたが、どれもつぼみで、一週間後には花盛りになっていると思いました。栃本尾根を上り、頂上園地で昼食し、霧降の道を下りました。今日の長沼公園の自然の様子です。(京王新宿線「長沼」駅下車、南へ徒歩15分)

(↑上の写真)左=アキノタムラソウ(秋の田村草)、中=孟宗竹林、右=栃本尾根の道

(↑上の写真)左と中=ナツハゼ(夏櫨)の実(未熟)、右=ガマズミ(莢蒾)の実(未熟)

 ナツハゼ(夏櫨)はツツジ科スノキ属。「APG牧野植物図鑑」によると「北海道から九州まで、および朝鮮半島南部と中国の温帯から暖帯に分布し、日当りの良い山地に生える落葉低木。高さ1~2m。花は初夏、若枝の先に総状花序を一方に偏って下向きに咲く」とあります。実は酸味のある黒く熟す液果です。語源のハゼノキは、ウルシ科なのでその実から蠟を採ります。かぶれるので食べられませんが、ナツハゼはツツジ科なので大丈夫です。実は、重みで垂れ下がるため、ブドウのようなつき方で、花の時の様子からはちょっと想像がつきません。この実を「日本のブルーベリー」という人もいるそうです。和名ナツハゼは『ウィキペディア』によると「夏にハゼノキのような紅葉が見られることから名づけられた」とあります。

(↑上の写真)いずれもオカトタノオ(丘虎尾)

 オカトラノオ(丘虎尾)はサクラソウ科オカトラノオ属。アジア東部の温帯から亜熱帯に広く分布し、日本各地の山野にはえる多年草。長い地下茎で繁殖。花は夏、茎の先端に10〜30cmほどの長い総状花序を伸ばし、途中で下向きに俯きます。その様子が虎のしっぽのように見えます。この花穂には小さな白い花が多数集まっており、花穂の根元(下方)から先端に向かって徐々に咲き進みます。花は5弁花のように見えますが、1つの花びらが深く5つに裂けた合弁花です。オカトラノオは明るい乾燥気味の丘に生えますが、似ているヌマトラノオ(沼虎尾)は湿地に生え、花穂はオカトラノオのように曲がらず直立しています。なお、トラノオという植物はクガイソウの別名です。(『APG牧野植物図鑑』、『牧野富太郎植物記2野の花2』、Web『AI』などを参照、翻案)

(↑上の写真)いずれもヒヨドリバナ(鵯花)

 ヒヨドリバナ(鵯花)はキク科ヒヨドリバナ属。『APG牧野植物図鑑』によると「北海道から九州、さらに朝鮮半島、中国大陸の温帯から暖帯に分布し、山地の乾いたところに生える多年草。高さ1~2m。フジバカマに似ているが、地下茎は横に這うことは無い。(それで群落をつくりにくいんですね。)香気は少ない。花は夏から秋。和名はヒヨドリが鳴く頃咲くことに因む」とあります。また、「Web『e-yakusou.com』によると「花は、小さな管のように集まり、それが枯れると良く燃えて、火熾し(ひおこし)の材料になるから、火熾し(ひおこし)から、火を取る(ひをとる)に転訛して、ヒヨドリの名になった」とあります。いろいろ説があるようです。

(↑上の写真)左=ヤマユリ(山百合)つぼみ、中=クスダマツメクサ(薬玉詰草)、右=休憩所のある頂上

 クスダマツメクサ(薬玉詰草)はマメ科シャジクソウ属。『日本日本帰化植物写真図鑑』によると、西アジアから北アフリカにかけての原産で、アメリカ、オーストラリアやアジアに帰化している一年生草本。葉は3枚の楕円形の小葉からなる複葉。春から夏に葉腋に花序を出し、長さ5mmほどの鮮黄色の蝶形花を長さ2cmほどの穂状に密につける。1943年に横浜市で見いだされ、その後は全国的に見つかっている。河川敷や市街地の空き地にしばしば群生する。花穂が薬玉に似るのでこの名がある、とあります。

(↑上の写真)いずれもアカメガシワ(赤芽槲・赤芽柏)雌木、左=雌花の若い実になりかけの集合体、中と右=雌木の様子

(↑上の写真)【参考:牧野記念庭園にて】いずれもアカメガシワ(赤芽槲・赤芽柏)の雄花、雄木の様子

 アカメガシワは雌雄異株の落葉高木です。雌木、雄木があるのですが、普段気付かずに見過ごしています。花の時期には雌木、雄木の同定ができます。この時季がチャンスということで、訪ねた2カ所で確認しました。上掲写真で比較してご覧ください。雌花の集合体は雌花序といい、雄花の集合体は雄花序といいます。アカメガシワは風によって花粉を運ぶ風媒花であり、虫に来てもらう必要がないので綺麗な花びらを持たないシンプルなつくりをしています。雌花は中央に太い丸い子房があり、その先に3〜4裂した赤い柱頭が長く伸び、受粉しやすくするために、外側に大きく反り返っています。子房のまわりには星状毛(細かな毛)のほか、黄色い粘着質な「腺毛(せんもう)」が混じっています。受粉に成功すると、子房が大きく膨らんでトゲだらけの果実になり、秋には黒い種子をのぞかせます。風媒花としての効率をよくするために、形態をできるだけそれに対応したような工夫を加えています。アカメガシワの花を研究するとその他の面白いことにも気付くかもしれませんね。(『APG牧野植物図鑑』、Web『AI』などを参照翻案)

(↑上の写真)左=アジサイ(紫陽花)、中と右=ガクアジサイ(額紫陽花)、右=花の咲き終わりで飾り花が下を向いています。

(↑上の写真)左=タケニグサ(竹煮草)、中=ヤブミョウガ(藪茗荷)、右=霧降の道

【↓以下は長沼駅から栃本尾根上り口までの間で見かけた植物】

(↑上の写真)左=クチナシ(梔子)、中=ヤブカンゾウ(藪萱草)、右=イタドリ(虎杖)

 イタドリ(虎杖)はタデ科ソバカズラ属。『APG牧野植物図鑑』によると「北海道南部から奄美諸島、および朝鮮半島南部、台湾の温帯から暖帯に分布し、山野のいたるところに生える多年草」と、あります。田中修著『植物はすごい』に「茎をかじると甘酸っぱく、折るとポコンと音をたてます。だから「スカンポ」と呼ばれることもあります。この植物の葉を揉んですり傷につけると、痛みが取れると言われ、それが「イタドリ」の名前の由来です」と、あります。また、有川浩著(小説)『植物図鑑』に「イツキは水洗いしたイタドリをザルに上げ、一本取って皮を剥き始めた。根本から頭まで一息に剥ける。皮を剥き終わると、赤紫のまだらが入った少し不気味な色合いからは想像もできないほどきれいな黄緑色が現れた。「青リンゴみたいな色だね」「お、奇しくも至言。齧ってみな」差し出された茎を恐る恐る齧ってみる。すると――「えー。何これ!」「意外だろ」「意外どころの話じゃないよ!」齧った茎は甘酸っぱく、果物に近い味がした。それも――正にリンゴのようなみかんのような爽やかさだ。こんな味のする草があるなんて。「でも蓚酸が多いから、食べすぎると腹壊すんだよな。だから、やっぱりアク抜きをしっかりしないと料理には使えない」と、イツキは言う」と。

(↑上の写真)左=ギシギシ(羊蹄)、中=コヒルガオ(小昼顔)、右=ツユクサ(露草)

(↑上の写真)左=セイヨウフジバカマ(西洋藤袴)、右=ユウゲショウ(夕化粧)

(↑上の写真)左=アジサイ(紫陽花)、中と右=コオニユリ(小鬼百合)

 コオニユリ(小鬼百合)はユリ科ユリ属。『APG牧野植物図鑑』によると「日本各地、朝鮮半島、中国東北部など温帯から暖帯に分布。日当たりの適湿な山地に生える多年草。新しい鱗茎は茎の地下部に前年の鱗茎と離れてつく。高さ1~1,5m、葉腋にムカゴがない。(註:これがオニユリとの区別点で花とか大きさでは区別できないようです)花は夏。鱗茎は大きくて白色。苦みが少なく食用として栽培される」とあります。また、ユリ属の球根には球根の上に生える上根と球根の下に生える下根があり、上根は土中の水や養分を吸収する働きをしますが、下根は主に球根を下に引っ張り、なかなか抜けないようにしていて、他の動物に掘られないようにしているわけです。しかも球根は百合と言われるくらいたくさんの鱗片で出来ていて、動物に食べられた時に鱗片の一つでも落ちれば、それが新たな芽を出すようになっているということが言われています。

 

都立石神井公園・・・令和8年6月30日

 都立石神井公園を訪れました。西武池袋線石神井公園駅下車、南へ徒歩10分。スワンボートの浮かぶ東の石神井池と西の国指定特別天然記念物「沼沢植物群落」のある三宝寺池の2つがあります。今回は両方の池を一周し、2時間半ほど自然の様子を観察しました。今日の様子です。(写真をクリックすると拡大されます。)

(↑上の写真)左と中=アジサイ(紫陽花)、右=ガクアジサイ(額紫陽花)

(↑上の写真)左=ヤマブキ(山吹)、中=ヤエヤマブキ(八重山吹)、右=アベリア=ハナゾノツクバネウツギ(花園衝羽根空木)

(↑上の写真)左と中=ラクウショウ(落羽松)、右=メタセコイアの葉<ラクウショウとメタセコイアでは葉の様子が違います>

 メタセコイアの葉は羽状複葉のように見えますが、一つ一つの小さな葉は、植物学上は小葉ではなく独立した一つの単葉ということです。構造上は小さな単葉が、枝に対生してついているという状態です。ですから小葉と呼んでしまいそうですが、小葉ではなく単葉。そこを押さえて、それでは中央の軸の正体は? 葉の一部の葉軸ではなく当年枝つまりだそうです。メタセコイアは秋になると、小さな葉を一枚ずつパラパラと落とすのではなく、小さな葉がついた枝ごと地面に落とす(落枝)という性質を持っています。このため、全体が大きな一枚の葉のように錯覚しやすいのです。 メタセコイアとラクウショウは非常によく似た針葉樹です。見分け方はこの単葉のつき方がポイントです。メタセコイアは単葉も、それがついている枝も、すべて左右対称に対生します。ラクウショウは単葉が、枝に対して互い違いに互生しています。このことを上の写真で確認してみましょう。(Web『AI』などを参照翻案)

(↑上の写真)左=ヤブカラシ(藪枯)、中=ユウゲショウ(夕化粧)、右=ボタンクサギ(牡丹臭木)

 ボタンクサギ(牡丹臭木)はシソ科クサギ属。中国南部やインド北部が原産の落葉低木。一つひとつの花の形は牡丹に全く似ていませんが、小さなピンク色の花がたくさん集まって全体として丸く華やかに咲く姿が牡丹のように見事であることから、その名を牡丹と被せられたということです。それではクサギ(臭木)とつく理由は、というと葉や茎を傷つけると独特の匂いを発するからです。機会があったら試してみてください。この植物は繁殖力が強く、挿し木ですぐ根づくので、株分けには苦労しませんが、一度根づくと、地下茎をのばしてあっという間に増えてしまうということです。(Web『BOTANIKA』、Web『AI』などを参照翻案)

(↑上の写真)左=三宝寺池沼沢植物群落が国の天然記念物に指定されていることを示す石碑、中=コウホネ(河骨)、右=コサギ(小鷺)とカワウ(川烏)

 コウホネ(河骨)はスイレン科コウホネ属。北海道西南部から九州および朝鮮半島の温帯から暖帯に分布。川や池沼などに生える多年草の水草。花は夏、黄花を上向きに開きます。花弁状に見えるものは萼片で、花弁は小形で多数。和名河骨は川に生え根茎が白骨のように見えるため、といわれます。花弁のように見える5枚は萼片で、本当の花弁は萼片のもとの内側に小さく多数ついているもので、外からは見えないようです(『APG牧野植物図鑑』などを参照翻案)。三島由紀夫著『豊饒の海(一)春の雪』に「松枝(まつがえ)侯爵邸は渋谷の郊外の14万坪の地所に多くの棟が甍を競っていた。母屋は日本建築だったが、庭の一角には壮麗な洋館があり、靴のまま上がれる邸は、大山元帥邸をはじめ4つしかないと云われていたその一つが松枝邸なのである。庭の中心は、紅葉山を背景にしたひろびろとした池であった。その池はボート遊びもでき、中ノ島もあり、河骨も花咲き、蓴菜(じゅんさい)もとれた。母屋の大広間もこの池に面し、洋館の饗宴の間もこの池に臨んでいた」とコウホネが描写されています。渋谷の郊外でも随分自然が豊かだったんですね。

(↑上の写真)左=三宝寺池、中=ウチワヤンマ(団扇ヤンマ)、右=ヒメガマ(姫蒲)

 ヒメガマ(姫蒲)はガマ科ガマ属。日本各地と世界の温帯から熱帯に広く分布し、川や池、沼沢などに生える多年草。ヒメガマの最大の特徴は、花軸の上方に雄花がつき、下方に雌花(ガマの穂)がつき、雄花と雌花の間に何もない花軸がむき出しになっている部分があることです。上掲写真を拡大して確認してみましょう。(『APG牧野植物図鑑』、山渓カラー名鑑『日本の野草』などを参照翻案)

(↑上の写真)左=ヒツジグサ(未草)=スイレン(睡蓮)、中=ハンゲショウ(半夏生)、右=ウツボグサ(靭草) 

 スイレン(睡蓮)はスイレン科スイレン属。松田修著「花の文化史」に「スイレンは睡蓮の意味で、この花が朝に開いて夕に閉じるからで、一名ヒツジグサ(未草)の名もある。これは未(ひつじ)の刻、今の午後2時から開花するというのでこの名が起こったものらしいが、事実は、この花は、早朝から夕刻まで咲きつづけ、必ずしも未の刻とは関係ない。したがって、スイレンの名は正しくはこの日本産のヒツジグサにつけられた名である。日本産の睡蓮は白一色なのに対して、西洋産は色彩に変化があり、花も大きい」とあります。原田マハ著『美しき愚かものたちのタブロー』に「(田代雄一と松方幸次郎が戦前、モネのアトリエを訪ねた時を思い出して田代は)あの夏、あの日、あの時、確かに佇んでいた、あの池のほとり、モネのアトリエ、ジヴェルニーの青空の下で、田代は松方幸次郎とともにいた。覚えている。さわやかな風が吹いていた。池のほとりの柳の枝が風のかたちに揺れていた。睡蓮のひと群れが、光の綾が幾重にも広がる水面に浮かんで、白い顔を空に向かってほころばせていた」と当時を回顧しています。

(↑上の写真)左=ヤブカンゾウ(藪萱草)、中=ハグロソウ(葉黒草)、右=カラスビシャク(烏柄杓)

 カラスビシャク(烏柄杓)はサトイモ科ハンゲ属。『APG牧野植物図鑑』によると「日本各地、朝鮮半島、中国の温帯から暖帯の田畑に生える駆除困難な多年草」とあります。名前の由来は、ほっそりした花の形が如何にもカラスが使いそうな柄杓の形をしているからと言われます。花はミズバショウなどと同じく仏焔苞と言われますが、苞に包まれて肉穂花序の花があり、花穂の下の方には雌花の集まりがつき、間隔をあけて上部には雄花の集まりがついているということです。カラスビシャクの漢名は半夏(ハンゲ)なので、別名をハンゲといわれたり、ハンゲの生える頃までに田植えを終わらないと収穫が減少するというので田植えの終える目安にもしていたようです。なお、ハンゲショウ(半夏生、ドクダミ科)とは別の草です。(『APG牧野植物図鑑』をはじめ各種参考書、Web参照翻案)

(↑上の写真)左=ヤブミョウガ(藪茗荷)、ヤブソテツ(藪蘇鉄)、右=ミズヒキ(水引)

 

練馬区立牧野記念庭園・・・令和8年6月24日

 久し振りに牧野記念庭園を訪れました。入園無料です。記念館ではボランティアの丁寧な解説もあり、講座室にはビデオが置かれ、牧野博士の生涯や功績の紹介がゆっくり鑑賞できます。庭園では、博士ゆかりのヘラノキ、ヒメアジサイの花が咲いています。博士の胸像の周りに植えられているスエコザサが青々と茂り、博士を見上げているようでした。今日の庭園の様子です。6月29日(月)まで企画展「牧野富太郎、大泉に来て100年、夢の時間を植え続けて」が行われています。(火曜日が休園日。入口左にはキッチンカーが止まり、コーヒーが好きだった博士にあやかった長寿珈琲やかき氷を売っています。椅子やテーブルもあり、ちょっとほっとできます。)

(↑上の写真)左=入口、中=博士の胸像と周りを囲むスエコザサ、右=博士の歌碑

 牧野富太郎博士は文久2年(1862年)高知県に生まれる。大正15年(1926年)大泉へ移住。昭和15年(1940年)『牧野日本植物図鑑』を刊行。昭和32年(1957年)永眠。「歌碑」第一句「家守りし妻の恵みや我が学び」(歌碑の解説を一部翻案)壽衛夫人は借金ばかりの生活苦に耐えながら好きなことひとつせず、常に牧野博士の研究を第一に考え尽くしてきました。博士の偉業は内助の功の賜物と言われています。博士は昭和2年仙台で発見したササを夫人の功を讃え、スエコザサと名づけ、夫人の名を世界に残しました。

(↑上の写真)左=繇條書屋(ようじょうしょおく)の説明、中と右=繇條書屋の部屋の中

 「繇條書屋(ようじょうしょおく)」とは、「草や木が伸び茂る書斎」という意味。この名称は、牧野博士が深く尊敬していた日本初の理学博士・伊藤圭介先生に自ら頼んで書いてもらった「繇條書屋」の額に由来します。実際の書斎は、博士が収集した約4万5千冊もの蔵書や膨大な植物標本で足の踏み場もないほど溢れかえっていたそうです。(Web『AI』を参照翻案)

(↑上の写真)いずれもヘラノキ(箆の木)

 ヘラノキ(箆ノ木)はアオイ科(もとシナノキ科)シナノキ属。『牧野新日本植物図鑑』によると「奈良県より西部、四国、九州に産する落葉高木」ということですから関東では普通には見られない樹木ということになります。また「初夏に枝先の葉腋から集散花序を出し、じくには狭い舌の形をした苞葉があり10~20数個の花を下向けに着ける」とあり、花の様子を観察するには今がチャンスです。このヘラノキとは、この苞葉の形がへら(箆)の形に似ていることから名付けられたということです。ボダイジュやシナノキなども同じように苞葉がへら形ですね。

(↑上の写真)左=スエコザサ(壽衛子笹)、中と右=ヒメアジサイ(姫紫陽花)

(↑上の写真)左と中=ウズアジサイ(渦紫陽花)、右=庭園内の様子

 ウズアジサイ(渦紫陽花)は、アジサイ科 アジサイ属。花びらのように見える萼片(がくへん)が内側に丸まり、小さな貝殻やポップコーンのように見えるユニークなアジサイ。Web『神戸市立森林植物園あじさい情報センター』によると「古品種。装飾花が匙状になる。特に赤花を「バイカアジサイ(梅花紫陽花)」と呼ぶ。明治20年までさかのぼれるが、江戸時代から存在したのではといわれる。貝咲きの装飾花に普通の装飾花が混じったり、すべてが普通の装飾花になるなど先祖返りがみられる」ということです。その様子を上掲写真でご覧ください。

(↑上の写真)左=ガクアジサイ(額紫陽花)、中=ガクアジサイの花が終わった様子、右=庭園内の様子

 ガクアジサイは花が終わると「花は終わり、もう蜜は出ませんよ。」と虫に知らせるために装飾花を裏返しにしています(中の写真)。花と虫の互恵関係の互いに礼を弁えた挨拶の態度ですね。

(↑上の写真)左と中=トクダマ(特玉)<トウギボウシの変種?>、右=見本園の様子

 トクダマ(特玉、徳玉)はキジカクシ科ギボウシ属。Web『AI』によると「江戸時代の園芸ブームのころから親しまれているが、野生の自生地は不明」ということです。「植物学的には『トウギボウシの変種』として扱われることが多い。葉の表面が強い白粉(ロウ質)に覆われており、日光の当たり方や露に濡れたときに美しい青みがかった発色をする。夏に淡い紫を帯びた白い花を咲かせるが、ラッパ状に完全には正開(全開)しない性質がある。和名の由来は、この開ききらない花を玉に見立てた(徳玉・特玉)という説が有力。性質は非常に丈夫で耐寒性・耐暑性が高く、寿命が長いため、古くからある日本の庭園などでも立派な大株を見ることができる」ということです。開ききらない花を玉に見立てた、というより、今にも開きそうなつぼみの膨らんだ様子を玉と見立てたという方がいいのではないでしょうか。みなさんはどう思われるでしょうか?

(↑上の写真)左と中=オオバギボウシ(大葉擬宝珠)、右=ムジナモ(貉藻)

 ムジナモ(貉藻)はモウセンゴケ科ムジナモ属。『牧野新日本植物図鑑』によると「世界に点在して生える珍しい食虫植物で、日本では明治23年(1890)5月11日、関東利根川流域内の東京郊外小岩村で初めて発見された。沼や水田の小川などの水溜まり中に浮かんで生活し、根は無く、冬は茎の先が球状にかたまり越年する。日本名ムジナモ(貉藻)はこの食虫植物の形をタヌキの尾に見立ててつけた名でムジナはタヌキの別名である」とあります。朝井まかて著『ボタニカ』で(矢田部教授がムジナモ(貉藻)について)「インドで発見され、その後、欧州、豪州の一部でも発見されましか、我が国でも産しておったとは(大発見だよ!)」(と矢田部教授が声をあげた直後、教授は)「じつは植物教室でも、帝国大学理学部植物学教室として『日本植物誌』を刊行することになったので、向後、標本や書物の閲覧は遠慮してくれたまえ」と(言われ、牧野富太郎は)教室への出入りを禁止される。教室への出入り禁止を通告された後、富太郎は貉藻を小桶に移して持ち帰った。(テレビ「らんまん」の場面が思い出されます)そのムジナモをここ牧野記念庭園で見られます。

(↑上の写真)いずれもアカンサス(ハアザミ=葉薊)

 アカンサスはキツネノマゴ科ハアザミ属。Web『AI』によると「アカンサス(Acanthus)は、地中海沿岸原産の大型の多年草(宿根草)。葉は 濃い緑色で、深い切れ込みと光沢があり、葉の形が「アザミ」に似ていることから、和名ではハアザミ(葉薊)と呼ばれる。花は6月〜8月頃。まっすぐに伸びた茎に、紫色の「萼(がく)」と白い「花弁」が組み合わさった独特な花を、穂状にたくさん咲かせる。名前は ギリシャ語で「トゲ」を意味する akantha が語源。花の付け根にある苞葉に鋭いトゲがあることに由来」ということです。

(↑上の写真)いずれも実、左=フタリシズカ(二人静)、中=ホウチャクソウ(宝鐸草)、右=シロヤマブキ(白山吹)

(↑上の写真)左=ハグロソウ(葉黒草)、中=ミズヒキ(水引)、右=タケニグサ(竹煮草)

(↑上の写真)左と中=アカメガシワ(赤芽槲・赤芽柏)の雄花の開花はじめ、右=ヌルデ(白膠木)の蕾

 アカメガシワ(赤芽槲・赤芽柏)はトウダイグサ科アカメガシワ属。秋田県以南と朝鮮半島、台湾、中国に分布する雌雄異株の落葉高木。先駆植物といわれ、山火事などで森林が灰になってしまったところや山麓の開拓地で最初に出現する植物で成長が早い。新芽が赤いことや葉脈が赤いことから赤芽カシワといわれる。アカメガシワの名はカシワが無い地方でカシワの葉のように使用されたので「芽が赤いカシワ」ということでアカメガシワと言われるようになった。カシワ(柏・槲)はその葉に神様に供えるご飯などのお供え物を載せるのに使われたので「炊(かし)ぐ葉」と言っていたものが「かしわ」に転訛した。アカメガシワについては通常、上記のような説明が多く、花についてはほとんど説明されないことが多いです。上掲写真では雄花だけです。雌雄異株であることから、みなさんは今のこの時期に雌木、雄木を見極め、雌花、雄花を確認しましょう。参照資料:『APG牧野植物図鑑スタンダード版』、『牧野富太郎選集1』『ウィキペディア』をはじめ各Web参照)