野楽力研究所

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東京都薬用植物園・・・令和6年5月21日

 ザクロの花が咲く頃か?と思い、見に行きました。数日後の方が良かったかもしれません。ヒナゲシは満開です。モネの庭を模したような橋と枝垂れ柳のある池ではスイレンが咲いています。ショウブの花?も咲いています。ハナショウブの花と全く違うことに気づきます。ウツギ、ガクウツギ、アワモリショウマ、クララ、イブキジャコウソウも咲いています。今日の薬用植物園の様子です。

(↑上の写真)左=薬用植物園入口、中=ウツギ、右=ガクウツギ

(↑上の写真)いずれもザクロ(柘榴)の花

 ザクロ(柘榴・石榴)はミソハギ科ザクロ属。西アジア地方原産の落葉高木。深津正著『植物和名の語源』によれば「ザクロはペルシャ北部(現在のイラン辺り)の「安石国」からシルクロードを通って日本に渡来し、平安時代にはすでに栽植されていた。当時、実の形が瘤(こぶ)に似ていることから「安石瘤」と呼ばれ、それが略称されて現在では「石榴」または「柘榴」と書かれる」とあります。三好達治の随筆に『柘榴の花』という作品があります。「万物の蒼々たる中に柘榴の花のかっと赤く咲き出たのを見ると、毎年のことだが、私はいつも一種名状しがたい感銘を覚える。近頃年齢を重ねるに従って、草木の花という花、みな真紅のものに最も眼をそばだて愛着を感ずるように覚えるが、これはどういう訳だろう。その真紅のものの燃え上がるようなものという中でも、柘榴の朱はまた格別の趣きがあって、路傍などでこの花を見かけて目を驚かせるその心持の中には、何か直接な生命の喜びとでもいうようなものが、ともすればふさぎがちな前後の気持ちを押しのけて、独自の逼り方で強く胸に逼って来るのを私は覚える。それは眼を驚かせるというよりも直接心を驚かせるような色彩である。それは強烈でまた単純でありながら、何か精神的な高貴な性質を帯びた、あの艶やかな朱である。柘榴の花の場合にはその艶やかな朱が、ぽつんぽつんとまるで絞り出し絵の具を唯今絞り出したばかりのように、そのまま艶やかな緑葉の威勢よく群がった上に、点々と耀き出ているのであるから、その効果はまたいっそう引きたって、まるで音響でも発しているような具合に、人の心を奪って暫くはその上にとどめしめないではおかない、独占的な特殊な趣がある」という。ザクロの花がこれほどの感銘をもって賞讃されるのを知りません。

(↑上の写真)左=ザクロ(石榴)の木姿、中=コアジサイ(小紫陽花)、右=トウイボタ

(↑上の写真)左と中=ヒナゲシ(雛芥子、雛罌粟)、右=モンツキヒナゲシ(紋付雛芥子)

(↑上の写真)左=園内風景、中=スイレン(睡蓮)、右=モネの庭のような橋とスイレンと柳のある風景

 スイレン(睡蓮)はスイレンスイレン属。松田修著「花の文化史」には、スイレンは睡蓮の意味で、この花が朝に開いて夕に閉じるからで、一名ヒツジグサ(未草)の名もある。これは未(ひつじ)の刻、今の午後2時から開花するというのでこの名が起こったものらしいが、事実は、この花は、早朝から夕刻まで咲きつづけ、必ずしも未の刻とは関係ない。したがって、スイレンの名は正しくはこの日本産のヒツジグサにつけられた名である。日本産の睡蓮は白一色なのに対して、西洋産は色彩に変化があり、花も大きい」とあります。原田マハ著『美しき愚かものたちのタブロー』に「(田代雄一と松方幸次郎が戦前、モネのアトリエを訪ねた時を思い出して田代は)あの夏、あの日、あの時、確かに佇んでいた、あの池のほとり、モネのアトリエ、ジヴェルニーの青空の下で、田代は松方幸次郎とともにいた。覚えている。さわやかな風が吹いていた。池のほとりの柳の枝が風のかたちに揺れていた。睡蓮のひと群れが、光の綾が幾重にも広がる水面に浮かんで、白い顔を空に向かってほころばせていた」と当時を回顧しています。

(↑上の写真)左=ハナビシソウ、中=オオアザミ(大薊)、右=ウスベニアオイ(薄紅葵)

 オオアザミ(大薊)はキク科アザミ属。『日本日本帰化植物写真図鑑』によると「ヨーロッパ南部からアフリカにかけての原産。観賞用・若い葉や根は食用に栽培され、南北アメリカやオーストラリアに帰化している。日本には嘉永年間(1848~1853年)に渡来し、本州中部以西に散発的に帰化している。1年生または2年生草本。葉の縁は浅裂して長い刺があり、基部は耳状に茎を抱く。葉脈に沿い、銀白色の斑がある。花は夏、総苞片は大きく刺がある」ということで上掲写真のようです。これから次々に花が咲いていきますが、刺が鋭くて痛く、除草は大変です。街中にも散発的に見ることがあります。

(↑上の写真)左=オオジシバリ(大地縛り)、中=アワモリショウマ(泡盛升麻)、右=ムラサキ

 アワモリショウマ泡盛升麻)は、ユキノシタ科チダケサシ属。別名=アワモリソウ。『APG牧野植物図鑑』によると「中部地方以西、四国、九州の山地の谷川の岩上などに生える多年草。葉は硬く光沢があり、、2~4回の3出複葉、小葉は披針形で先が尖る。花は晩春から初夏に咲く。和名の泡盛升麻は白い花序を泡が盛り上がったように見立てたもの」とあります。上掲写真のように白い泡が盛り上がったようです。季節柄、ビールを思い出す人もいるでしょう。因みにショウマといわれる漢方薬サラシナショウマの根を乾燥したもので、解毒、解熱、止血などの作用ほかいろいろな薬効があるようです。アワモリショウマもその仲間として代用品に使われることがあるそうです。

(↑上の写真)左=クララ(眩草)、中=ニガナ(苦菜)、右=ショウブ(菖蒲)

 クララ(眩草)はマメ科クララ属。ウィキペディアによると「本州、四国、九州、中国大陸。日当たりの良い山野などに生え、大株になって自生する」という。ここ薬草園でもあちこちに点在して株を作っています。「全草有毒で、根の部分の毒性は強く、人では口にすると死に至るということであり、放牧地などでは牛も食べないので、このクララが大株を作って残っている光景が広がっていた」といわれます。そのため「クララのみを食草とするオオルリシジミというシジミチョウ(美しい青い蝶)には絶好の繁殖地となっていたのですが、放牧地が放棄され、草が生い茂り、クララも減少するとオオルリシジミは激減し、生息地域が狭まり、今では絶滅危惧種になっている」ということです。和名クララ(眩草)は『APG牧野植物図鑑』によると「眩草(くらくさ)の略で、根汁はひどく苦くて目がくらむほどの意。根は苦参という生薬として駆虫薬として用いられる」ということです。

 ニガナ(苦菜)はキク科ニガナ属。『APG牧野植物図鑑』によると「日本の各地、朝鮮半島、中国中部、サハリン、沿海州に分布し、丘陵地や山地にごく普通に生える多年草。根生葉は荒い鋸歯を持ち、しばしば羽状に裂ける。茎葉(茎につく葉)は広く茎を抱くものから基部が細まってわずかに茎を抱くものまで変異が多い。花は晩春から夏に咲き、頭花は1,5cmぐらい、花弁(花びら)は5・6枚の小花からなる」とあります。花弁の数が少ないので群生していてもすっきりした感じです。時々変種の白い花のシロバナニナガが見られることがあるかも知れません。葉や茎に苦みのある白い乳液を含むのでニガナ(苦菜)と呼ばれています。(引用は一部翻案)

(↑上の写真)左=イブキジャコウソウ(伊吹麝香草)、中=八重咲きドクダミ(蕺草、蕺)、右=園内雑木林の園路

(↑上の写真)左=園内風景、中=カルミア、右=ハマナス(浜梨)

 ハマナス(浜梨)はバラ科バラ属。『APG牧野植物図鑑』によると「太平洋側は茨城県日本海側は鳥取県以北、北海道、千島から朝鮮半島、中国に分布し、海岸の砂地に生える落葉低木。地下の枝で繁殖し大群落をつくる。枝は刺を密生。花は初夏から夏、紅色まれに白色で径6~8cm。果実は2~3cm、秋に赤く熟し食べられる。根は染料に、花は香水の原料になる」とあります。なお、本図鑑では、標準和名(正式の名)とされているものは「ハマナシ」で「ハマナス」は東北地方の訛りによる、としています。

(↑上の写真)いずれも実の写真:左=タラヨウ(多羅葉)、中=ソシンロウバイ(素心蝋梅)、右=クワ(桑)

【↓下の写真】温室にて

(↑上の写真)左=クワッシア、中と右=ゲンペイクサギ(源平臭木)

(↑上の写真)左=チョウマメ(蝶豆)、中=ブーゲンヴィリア、右=カカオ