野楽力研究所

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都立小金井公園(主に江戸東京たてもの園)・・・令和6年6月13日

 時節柄、入園者数も草木の花の数も少なかったです。ナツツバキが満開を少し過ぎ、ヒメシャラは終りに近かったのですが、両者が隣り合わせに植栽されていて、比較観察すにはとてもよかったです。今日の様子です。

【↓江戸東京たてもの園内での様子】

(↑上の写真)左=江戸東京たてもの園の入園受付、中と右=ガクアジサイ(額紫陽花)

(↑上の写真)ナツツバキ(夏椿)の花と樹皮

(↑上の写真)ヒメシャラ(姫沙羅)の花と樹皮

 ヒメシャラ(姫沙羅)はツバキ科ナツツバキ属。『APG牧野植物図鑑』によると「関東地方以西、四国、九州の山林中に生え、又庭木として栽植する落葉高木。花は初夏から夏、径2cm位、花の下に2枚の小苞があり、花弁5枚は下部で合着する。雄しべは合着しない。和名はナツツバキを誤ってシャラと呼び、その小形種の意味」とあります。単独で生えているとナツツバキかヒメシャラか区別しにくいですが、ここでは隣り合わせで両者が植栽されているので、じっくり観察できます。花の大きさは、『APG牧野植物図鑑』にナツツバキは径5cm、ヒメシャラは径2cmとあります。現物を比べて見てもその通りで、同じ花の形ですが、ヒメシャラはナツツバキの半分以下の大きさで一目瞭然でした。葉の大きさもそういう感じです。樹皮はどちらもサルスベリと同じように斑に剥げ落ち、つるっとした感じ。

(↑上の写真)左=ホタルブクロ(蛍袋)、中=ネジバナ(捩花)、右=コヒルガオ(小昼顔) 

 ネジバナ(捩花)はラン科ネジバナ属。別名モジズリ。『APG牧野植物図鑑』によると「日本各地、千島、サハリン、シベリア、中国の温帯から暖帯にかけて分布。原野の芝地、田の畔の草の中に多い多年草」とあります。『牧野富太郎植物記2』によると「モジズリ(捩摺り)といわれますが、花穂がらせん状にねじれて咲くのでネジバナとも呼ばれます。ランの仲間で一つの花を見るとラン特有の形をしています。モジズリという名の由来は「捩(もじ)れ摺(ず)れ」から出た名です。捩摺り(もじずり)というのは「みちのくのしのぶもじずり誰れゆゑに乱れそめにし我ならなくに」という古今集河原左大臣が詠んだ歌にもでているように、奥州の福島県信夫郡でつくられた「忍捩摺り」から出ている言葉でシノブの葉を摺りつけて染めたものともいわれています。この摺り衣(すりぎぬ)は乱れ模様に染めてあったことから、歌では「乱れそめ」を引き出すことばとして使われています。さて、植物のモジズリは、この摺り物の乱れ模様のように花が捩(もじ)れ巻いているのでモジズリという名がついたものです。捩じれ方は左巻きの方が多いですが、右巻きのものもあります」ということです。

(↑上の写真)左=ムラサキツメクサ(紫詰草)、中=キバナコスモス(黄花秋桜)、右=たてもの園の様子

 ムラサキツメクサ(紫詰草)はマメ科シャジクソウ属。『APG牧野植物図鑑』によると「ヨーロッパ原産。明治初年日本に渡来し、各地に帰化し、牧草として栽培される多年草。茎は直立、または斜上し、高さ30~70cm。全体に毛がある。葉は互生し長い柄がある。小葉には逆V字形の淡緑色の斑紋が入る。花は初夏から初秋、緑肥として利用される。英名はRed Clover」とあります。アカツメクサと呼ばれることもあるのはこのRed Cloverの訳。また、シロツメクサムラサキツメクサと異なり、全体無毛、茎は直立、斜上せず地面を這います。

(↑上の写真)左=シモツケ(下野)、中=サンゴジュ(珊瑚樹)、右=ノムラカエデ(野村楓)

 サンゴジュ(珊瑚樹)はスイカズラ科ガマズミ属。『APG牧野植物図鑑』によれば「東海地方以西から琉球列島、朝鮮半島南部に分布し、海岸付近の林に生え、また生垣として植栽される常緑小高木」とあります。艶のある厚手の葉は水分を含み、火が点きにくく燃えにくいので防火用として生垣に植えられているのをよく見かけます。サンゴジュの名前の由来は、秋に赤い果柄に赤い実のついた様子が珊瑚のように見えるのでつけられたということです。この木の葉にはサンゴジュハムシが取りつき、食い荒らされているのをよく見かけますが、一度発生すると防除するのがなかなか難しいようです。なお、田山花袋著『田舎教師』「林清三は、紹介状を手に俥で三田ヶ谷村弥勒高等尋常小学校の前を通り過ぎ、さらに小学校の先生たちの宴会場となっている弥勒の小川屋という料理屋で足を止め、垣根から中を覗いた。小川屋には綺麗で評判の娘がいると聞いていた。垣根の隅には椿と珊瑚樹の厚い緑の葉が日を受けて輝いていた(翻案)」清三の新しい人生が始まるところに珊瑚樹の艶やかな緑の葉が歓迎してくれているようでした。

【↓小金井公園内で様子】

(↑上の写真)左と中=ビヨウヤナギ(未央柳)、右=園内の様子

(↑上の写真)左=ドクダミ(蕺草、蕺)、中=グンバイナズナ(軍配薺)、右=ブタナ(豚菜)

 グンバイナズナ(軍配薺)はアブラナ科グンバイナズナ属。『APG牧野植物図鑑』によると「ヨーロッパ原産。北半球各地に広がり帰化し、日本では各地の畑や他の縁などに生える越年草」とあります。越年草ということで、冬でもロゼット状で頑張っている姿が見られます。和名の軍配薺は実の形が軍配扇の形に似ていることによるとのこと。上掲写真からも納得です。一方、ナズナはその実が軍配扇の形ではなく、三味線の撥に似た三角形をしているのでその音に擬して別名ペンペングサと言われています。