野楽力研究所

近くの自然で野楽力を高めましょう

八島ヶ原湿原・・・令和5年7月11日

 霧ケ峰高原のニッコウキスゲが例年より早く咲き始めているようなので、早速訪れてみました。以前鹿の食害で絶滅近かったですが、保護活動の結果、随分回復しています。昨年は虫害により相当被害があったと聞いています。今年は、八島ヶ原湿原へ向かうビーナスラインの車山山麓ニッコウキスゲを含め、すばらしい眺めです。八島ヶ原湿原は湿原全体を指し、その一部に天然記念物の八島湿原があります。今日の様子です。(八島ヶ原湿原は標高1630m、総面積43,2ha、そのうち23haが国の高層湿原天然記念物)

(↑上の写真)左=八島湿原入口、中=ニッコウキスゲ(日光黄菅)、右=ニッコウキスゲ群落

(↑上の写真)どれもノアザミ(野薊)

(↑上の写真)左=「あざみの歌」歌碑、中=湿原風景、右=「山小舎の灯」歌碑

(↑上の写真)左=シシウド(猪独活)、中=オオカサモチ(大傘持)、右=イブキボウフウ(伊吹防風)

 オオカサモチ(大傘持)はセリ科オオカサモチ属。『APG牧野植物図鑑』などによると「本州中部以北、北海道及び千島、サハリン、朝鮮半島などに分布し、山地に生える多年草」とありあす。シシウドに似ていますが、オオカサモチの葉は1~3回3出羽状複葉で葉先が尖っています。ニンジンの葉のようだと覚えました。この特徴ある葉の形を頭に入れておきます。シシウドの葉は粗大で平たく3回羽状複葉で小葉は卵形です。オオカサモチは大傘持で、僧侶が練り歩くときにその僧侶にお付きの者が大きな傘を捧げますが、その大きな傘を擬えたものです。

(↑上の写真)左=ヨツバヒヨドリ四葉鵯)、中=ウツボグサ(靭草)、右=カラマツソウ(唐松草)

 カラマツソウ(唐松草)はキンポウゲ科カラマツソウ属。矢野亮監修「日本の野草」夏篇によると「北海道、本州の山地帯上部に分布。名は細く糸状の花を唐松の葉にたとえたもの。茎は直立し、よく枝を分ける。葉は3~4回3出複葉。茎頂に散房花序をつけ、直径約10mmの花を多数開く。萼は早落性。花は雄しべの花糸が集合したもので花弁はない」とあります。緑の多い山野で、カラマツの葉のような白銀の花を見るとその美しさに目を見張ります。忘れ得ぬ爽やかな花です。

(↑上の写真)いずれもイブキトラノオ(伊吹虎尾)、左=白色、中=ピンク、右=群落 

 イブキトラノオ(伊吹虎尾)はタデ科イブキトラノオ属。日本各地(図鑑によっては関東以西)の山地の日当たりのよい草地に生える多年草滋賀県伊吹山に多く生えているので名づけられたと云います。茎は1本、枝分かれせず直立してその茎頂に虎の尾に似た穂状花序の花穂をつけます。花茎・花穂は、他の草の中から抜きん出ていて、目立ち、花穂の先はトラノオのように尖っていませんね。

(↑上の写真)左=イタチハギ(鼬萩)、中=オオダイコンソウ(大大根草)、右=タカトウダイ(高灯台

 イタチハギ(鼬萩)はマメ科イタチハギ属。『ウィキペディア』によると「北アメリカ原産のマメ科マメ亜科イタチハギ属の落葉低木。別名「クロバナエンジュ」。北アメリカ(カナダの一部とアメリカ)、メキシコを原産地とする。アメリカ西部、イタリア、日本などに移入分布する。樹木の高さは1-5mほど。葉は互生で、奇数羽状複葉。花期は4-7月で、長さ6-20cmの黒紫色をした穂状花序をつける。根の土壌固定力が強く、マメ科特有の窒素固定による肥料木としても有用であるため、法面緑化に利用されている。日本には韓国から1912年に初めて導入され、1940年代以降、緑化や観賞用として本格的に輸入された。日本各地に野生化している。霧ヶ峰や白山といった自然度の高い地域で、在来種の植物の生育を阻害したり、景観を損なうなどの問題を起こしている」ということです。八島湿原には似合わない異様な色と形の花でした。余り増えてもらいたくない感じはします。別名の「クロバナエンジュ」の方が名前としては似合っているように思います。名前は、イタチが尻尾を立てているような花の付き方から、また葉が萩の葉のようだからイタチハギと名づけられたというのも俄かには同意し難かったですが、読者の皆様はどうですか。

(↑上の写真)左=イタチササゲ(鼬大角豆)、中=ヤナギラン(柳蘭)咲きはじめの一株、右=ノハナショウブ(野花菖蒲) 

 イタチササゲ(鼬大角豆・鼬豇豆)はマメ科レンリソウ属。『牧野植物図鑑』によれば、「山野の日当たりの良いところに生える多年生草本。アズキの豆果に似ていて、小柄がある。鼬豇豆のイタチは、黄色の花が後に褐色に変わるので、イタチの毛の色が黄赤色であるのに、なぞらえたものであろう」とあります。上掲写真の花が茶色になっているのが写っていますが、その色がイタチの毛色ににているので名づけられたというわけです。ササゲについてはWeb『公益財団法人日本豆類協会』によると「ささげは、日本では古くから栽培され、平安時代にはすでに「大角豆」という名前で存在していたことが記録として残っていますが、アフリカ原産のものが中国を経て渡来したものです。なお、「大角豆」という名前は、豆の端が少し角ばっていることから付けられたようです。また、江戸時代の「農学全書」には、紅色に由来してとも表記されています。ささげという名前の由来については、細い莢を小さな牙に見立てて「細々牙」とした、あるいは、莢が物を「捧(ささげ)る」かのように上を向いているから、などの説があります」と紹介されています。細い莢を小さな牙に見立てて「細々牙」(ささげ)とした、というのが何となくありそうな気がします。読者の皆さんは、どう思われますか?

(↑上の写真)左=トリアシショウマ(鳥脚升麻)、中=ハクサンフウロ(白山風露)、右=グンナイフウロ(郡内風露)

(↑上の写真)いずれもコバイケイソウ(小梅蕙草、左=コバイケイソウの咲く湿原、中=草姿、右=花穂

 コバイケイソウ(小梅蕙草)はシュロソウ科シュロソウ属。『APG牧野植物図鑑』によると「本州中部以北、北海道の高山帯の日当たりのよい少し湿った場所に群生する多年草」とあります。確かに生えているところは湿ったところで群生しています。間違えやすいのは上掲写真のようにコバイケイソウバイケイソウより花穂が枝分かれしていて豊満です。ですからコバイケイソウの方をバイケイソウかと思いやすいです。バイケイソウの方が花穂はすっと伸びて細身です。花穂の形が区別点です。コバイ・ケイソウではなくコ・バイケイソウです。小さいバイケイソウという意味です。全草有毒ということです。

(↑上の写真)左=クサフジ(草藤)、中=キバナノヤマオダマキ(黄花山苧環)、右=カワラマツバ(河原松葉)

(↑上の写真)左=コウゾリナ(顔剃菜)、中と右=アカバシモツケソウ(赤花下野草)

(↑上の写真)左=ミヤマタニワタシ(深山谷渡)、中=ノコギリソウ(鋸草)、右=木道と夏空

 ミヤマタニワタシ(深山谷渡)はマメ科ソラマメ属。『APG牧野植物図鑑』によれば、「関東、中部地方および朝鮮半島の温帯に隔離して分布する山地の林下に生える多年草」ということです。隔離して分布(隔離分布)とは、広域に分布していたものが、気候変動や地殻変動などで連続性が途切れて孤立化したものをいいます。花が一方向に向いて房状に咲いています。上掲写真ではよく分かりませんが、茎が屈曲しています。タニワタシと呼ばれるのは、弘法大師空海が谷を渡るときにこの草に援けられて渡ったということからタニワタシという名がついたと言われています。