野楽力研究所

近くの自然で野楽力を高めましょう

3、植物多様性センター・・・令和5年7月5日

 植物多様性センターは神代植物園に西隣にあり、東京都内の植物、奥多摩から小笠原諸島までの多様な植物を育成しています。年々、栽培植物を増やし、植物の多様性が充実してきました。入場無料です。今日の様子です。

(↑上の写真)左=西門、中=キツネノカミソリ(狐剃刀)、右=ヤブカンゾウ(藪萱草)

 キツネノカミソリ(狐剃刀)はヒガンバナ科ヒガンバナ属。岡山理科大学HPによると「本州から九州に生育するヒガンバナ科の植物である。ヒガンバナと同様に、花が咲くときには葉がない。早春からスイセンに似た葉を展開し、夏草が茂るころには葉が枯れる。その後に花茎を形成し、花を咲かせる。キツネノカミソリはお盆ころに、ヒガンバナはお彼岸に花を咲かせる。また、ヒガンバナが人里の刈り取り草原や河原だけに生育するのに比べ、キツネノカミソリは林縁や明るい落葉広葉樹林に生育している。名前の由来は葉の形がカミソリに似ているとのことである」とあります。早春他の草がまだ目覚めない前から細い葉を伸ばし、太陽をいっぱいに浴びて一年分の栄養を蓄え、他の草が生い茂る頃には葉を枯らし、花茎を伸ばし、他の草の上に花を咲かせ、受粉に来た虫を独り占めにする戦略で、誰とも争わず、生き延びている理想的な平和主義者ですね。生き方として見習うところがありそうに思います。

(↑上の写真)左=ヤブラン(藪蘭)、中(草姿)・右(花)=クマツヅラ(熊葛)

 クマツヅラ(熊葛)はクマツヅラ科クマツヅラ属。APG牧野植物図鑑によると「アジア、ヨーロッパ、北アフリカの暖帯から熱帯に分布し、北アメリカに帰化している。日本では本州から四国、九州、琉球列島の野原や道端に生える多年草。茎は四角く高さ60cm位。葉は長さ3~10cmで通常3裂し、各裂片はさらに羽状に裂ける。花は夏、花序は下から花が咲くにつれて伸びる」とあります。花の咲き方は下から咲く無限花序。下の方から実が出来るわけで、花は花茎の先端がどんどん伸びて天に向かって花開いていきます。無限に伸びていく感じです。花の形からイノコヅチやハエドクソウのような実が出来るのかなと思いきや2mmほどの縦長の実でした。今まで見落としていた山野草の一つでした。

(↑上の写真)左=ウウボグサ(靭草)、中=ヒヨドリバナ(鵯花)、右=カワラサイコ(河原柴胡)

 カワラサイコ(河原柴胡)は、バラ科キジムシロ属。「APG牧野植物図鑑」によると「本州、四国、九州、および朝鮮半島、台湾、中国、アムールなどの温帯に分布し、日当たりのよい海岸や河原の砂地に生える多年草。茎は太く斜上し、高さ30~60cm。葉は15~27枚の小葉からなり、裏に白綿毛を密生する。花は初夏から夏に咲き、径1~1,5cm。和名の柴胡は根茎を薬用とするセリ科のシマサイコ類の漢名で根茎が似ていて、しかも河原に生えるからという」とあります。サイコというので中国の西湖をイメージしていたのですが、とんだ間違いでした。根茎を薬用にするミシマサイコの漢名ということです。その根茎に、この根茎が似ていることと河原に生えていることから名付けられたとのこと。随分遠回しの名づけ方ですね。ここでは砂地の植物のコーナーに植栽されています。

(↑上の写真)左=カワラハハコ(河原母子)、中=チダエサシ(乳茸刺)、右=イヌゴマ(犬胡麻

 イヌゴマ(犬胡麻)はシソ科イヌゴマ属。APG牧野植物図鑑によると「北海道から九州までの田の畔や山野の湿地に生える多年草」とあります。シソ科ですから茎は四角く、稜が4つある4稜で、稜上には下向きの刺が生えていてざらつきます。重井薬用植物園HPによると「イヌゴマ(犬胡麻)の名は、種子や植物体全体の姿が食用のゴマに似ているが、食用にはならないことから、ゴマそのものとは異なる(異な=イヌ)ということで、名付けられたとされます」とあります。「異な胡麻」の意味で使われていたものが、いつの間にか役立たずの犬胡麻になったようです。犬は十分役立つ動物ですから、「イヌゴマ」より本来の「イナゴマ」の方がかっこいいじゃありませんか? 名前を変えたい植物の一つです。

(↑上の写真)左=ハマナデシコ(浜撫子)、中=タイトゴメ、右=キキョウ(桔梗)

(↑上の写真)左=ヤマユリ(山百合)、中=アキノタムラソウ(秋の田村草)、右=ムラサキ(紫草) 

 アキノタムラソウ(秋の田村草)はシソ科アキギリ属。本州以南、台湾、中国の暖温帯の山野に生える多年草だそうで、花は夏から晩秋、数段輪生してつき、葉は1~2回羽状複葉で3~7個の小葉からなります。タムラソウというので友人の田村さんを思い出してしまいますが、名前の由来は、「みみみんブログ」などいくつかのWebを総合すると「昔、集合した軍隊のことを「屯(タムラ)」や「党(タムラ)」と言っていたことから、秋に花が集合して咲く様子に由来するという説、また、紫色の花をたくさんつけることから「多紫草(たむらさきそう)」とも呼ばれ、それが「タムラソウ」になり、キク科のアザミに似たタムラソウと区別するために「秋の」をつけてアキノタムラソウ(秋の田村草)と呼ばれるようになったという説」などがいずれも引用で紹介されています。以上の説から考えると花が屯(たむろ)=集まっている様子を表現して名づけたものと捉えるのがいいように思います。賢明なる読者諸氏はいかがでしょうか?

【↑ムラサキの参考写真:野楽力研究所にて】左(花)と中(草姿)=令和4年6月5日撮影、右(種子の状態)=令和5年7月9日撮影

 ムラサキ(紫草)はムラサキ科ムラサキ属。『APG牧野植物図鑑』によると「北海道から九州まで、および朝鮮半島、中国、アムールに分布。山地の草原の傾斜地に生える多年草」とあります。随分日本でも広範囲に分布しているようですが、環境省第4次レッドリストによると絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定され、近い将来における絶滅の危険性が高い種とされています。現実にはほとんど目にすることはありませんので、ここ植物多様性センターで見られることは貴重です。『牧野富太郎植物記2』の解説によると「この草は多年草で、根が太く、根は紫色をしています。この根から紫の染料を取ります。茎は30~60cmほどに直立し、上部は3~4本に枝分かれします。茎にも葉にも強張った長い毛が多く、葉は互生。6~7月ごろ葉の付け根にある苞葉の間に小さい白い花をつけます。花は筒型で先が5つに裂け、平らに開いています。雄しべ5本、雌しべ1本です。種子は固く、なかなか発芽しません。万葉集の歌「むらさきの一本ゆえに武蔵野の 草はみながらあはれとぞみる」と詠われているように、昔は、武蔵野にはムラサキがたくさん生えていたのです。ムラサキから染料を取るには、根の紫色の皮を乾かして、臼で搗き砕き、これを水に浸して灰汁を加えると赤紫になります。また、灰汁を多く加えて煮だすと黒紫が得られます。紫の色素はシコニンといわれるものです。昔は、江戸紫といって江戸っ子の誇りで助六の紫の鉢巻きは粋なものでした。一般庶民が紫を用いるようになったのは江戸時代になってからです」とあります。昔はたくさんあったというのに、希少種になってしまったのはなぜでしょうか。「種子は固く、なかなか発芽しません」とあるように発芽率が悪く、現代人は、植え替えなどで土を動かしてしまうことが原因かもしれません。野楽力研究所でも育てています。大事に育ててたものは悉く失敗し、放っておいたものがいつの間にか発芽したという感じです。この経験から種子を蒔いた土を触らない、動かさない、知らんふりをしておくことが肝要のようです。

(↑上の写真)左=ノコギリソウ(鋸草)、中と右=マヤラン(摩耶蘭)

 マヤラン(摩耶蘭)はラン科シュンラン属。APG牧野植物図鑑によると「関東地方南部から琉球列島の林下に散発的に発生する無緑葉の多年生の菌根蘭」ということです。自然教育園見頃情報2019年7月18日号によると「名前は最初の発見地『神戸市摩耶山』にちなみます。葉と根を持たず、地上に姿を現すのは、花だけです。光合成は行わず、共生する菌から栄養をもらっています。サガミランはマヤランに比べて花の色が白いことが特徴」とあります。共生する菌がいないと生きていかれない、しかもその菌は特定の樹木の根にしかいないので移植は極めて難しいです。

(↑上の写真)左=オグルマ(小車、御車)、中(草姿)と右(花)=ビロードモーズイカ

 ビロードモウズイカ(天鵞絨毛蕊花)はゴマノハグサ科モウズイカ属。「ウィキペディア」によると「ヨーロッパおよび北アフリカとアジアに原産とし、世界中に帰化している。日本においては、明治時代初期に観賞用として導入され、現在では全国各地に溢出している。この植物は土手、草原、道路脇、伐採地、牧草地などを含む多様な環境で成育できるが、乾燥した砂礫土壌でもっともよく育つ。通常、二年生の植物とされるが、環境によって一年生のもの、三年生のものもある。花は初夏から晩夏にかけて、約3か月咲き続ける。花期の長さは花茎の長さに関連し、背の高い花茎は9月下旬から10月上旬まで咲きつづける。花は花穂の下から咲き始め、不規則に上の方に進行していく。各花は花茎を取り巻く数個の花だけが同時に、一日の一部だけ開花する。」という。どのような環境にも適応し、強かに繁殖しているようです。地方の山間の道沿いでこの植物に出会った時は、アメリカ西部に来たかのような印象を受けました。この植物園で今回見られたのは懐かしい感じでしたが、帰化植物の成功例として蔓延っていることを知るとうかうかしていられない気がします。皆様のまわりではどうですか。名前の由来は、ビロードは草肌、特に葉などがビロードの肌触りで、モウズイカは「ひげの生えている人」という意味のようですが、雄しべに毛が生えているからということのようです。

(↑上の写真)左=コマツナギ(駒繋)、中=クチナシ(梔子)、右=ミソハギ(禊萩)