野楽力研究所

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野川公園自然観察園・・・令和5年6月25日

 そろそろキキョウ、ギボウシミソハギなど夏の花が咲き始めるころとなりました。季節の移ろう都立野川公園自然観察園の今日の様子です。(自然観察園へはJR武蔵小金井駅南口バス停6番乗り場、武91に乗り15分「一の橋」下車)

(↑上の写真)左=自然観察園入口、中・右=キキョウ(桔梗)

 キキョウ(桔梗)はキキョウ科キキョウ属。東アジアの日当たりのよい草原に分布する多年草で、日本では自生のものは、絶滅危惧種となっているそうです。和名キキョウは漢名桔梗(キチコウ)の音読みが転訛したものということのようです。室井綽・清水美重子共著「ほんとの植物観察」によると「キキョウの花は上から順に下の方へ咲いていく有限花序。はじめ茎の頂端に花がついて成長が止まり、次はその横から出た枝の先に花がつき、また成長が止まるということを繰り返します。キキョウは雄しべ先熟で、雄しべが萎れると雌しべの柱頭が錨型に開き、虫媒によって運ばれてきた花粉と他家受粉し、優良な子孫を残すことができます」ということでなかなか面白い花の仕組みです。虫がいつ花に飛んでくるかちょっと気に留めてたしかめたいですね。ただ庭に植えると最初に咲いた茎頂の花が萎れ、いつまでも花殻が目立ちますので花後早めに花殻を取り除くようにした方がよいようです。

(↑上の写真)左・中=ヤブカンゾウ(藪萱草)、右=ノカンゾウ(野萱草)

 ノカンゾウ(野萱草)はススキノキ科ワスレグサ属。ノカンゾウは、野の萱草、つまり野萱草で、生薬として用いられるマメ科の甘草とは漢字も種も違います。山梨県塩山にある甘草屋敷は生薬のためにマメ科の甘草を栽培しているところです。朝ドラの主人公のモデル牧野富太郎著「牧野富太郎選集2」によると「ノカンゾウは日本には産し無く、中国の特産である。それで一重の萱草をシナカンゾウともホンカンゾウともいわれる。八重のヤブカンゾウはその一変種。つまり母種の一重咲きは中国のみに産し、その変種の八重咲きのものは中国と日本に産する。日本が大陸の一部だった時にヤブカンゾウは日本に拡大したが、その後、日本海ができ、ヤブカンゾウのみが日本に残された」ということです。日本列島生成の頃からあった植物なんですね。

(↑上の写真)左=ガガイモ(蘿藦、鏡芋、芄蘭)、中・右=ハエドクソウ(蝿毒草)

 エドクソウ(蝿毒草)はハエドクソウ科ハエドクソウ属。「APG牧野植物図鑑」によると「日本各地及び朝鮮半島、中国、ヒマラヤ、東シベリアなどの温帯から暖帯に分布し、山野の林内に生える多年草。花は夏、下から順次咲く。はじめ上向き、開くと横向きとなり、果実の時は下向き。根の搾り汁を紙に染ませ、蝿取紙にするので蝿毒草」ということです。対生の葉の付き方と緑が美しく、放っておくと次の年には、萌芽率がよいので大変なことになります。花の向きについてはこれから観察をしてみる価値があります。上掲写真でもその様子は認められると思います。

(↑上の写真)左=ヤブミョウガ(藪茗荷)、中=ギボウシ(擬宝珠)、右=オオバギボウシ(大葉擬宝珠)(まだ蕾)

(↑上の写真)左=キツリフネ(黄釣船)、中=ユウガギク(柚香菊)、右=キヌタソウ(砧草)

 キヌタソウ(砧草)はアカネ科ヤエムグラ属。本州から九州および中国大陸の温帯に分布し、山地の林内にふつうに生える多年草ということです。四つ葉が可愛らしいうえに花が小さな花火が開いたような感じで、初めて見た時には高貴な感じを受けました。名前から絹を想像してしまったからでしょうか。放置しておくと蔓延ってしまいます。しかし、キヌタソウは絹とは全く関係なく、実の形が布を敲く丸い杵のようなものに似ているから名づけられたといいますがどうでしょうか。砧(きぬた)自体は(国語辞典によると)木づちで布を打って布を柔らかくしたり、艶を出したりすることだそうです。

(↑上の写真)左・中=ガクアジサイ(額紫陽花)開花中、右=ガクアジサイの受粉終了 

 ガクアジサイ(額紫陽花)はアジサイアジサイ属。中央の細かい花の集まりの花が両性花で、周りの大きい装飾花は、花弁のように見えるものは萼の変化したもので受粉のための虫を呼び寄せる働きをしているということです。上掲の中の写真は装飾花が虫を呼ぶために表を出していますが、花の受粉が終わると「もう、虫さん来なくていいですよ」というように裏側を見せています(右の写真)。注意して観察するとアジサイの高度な戦略を窺い知ることが出来ます。

 柳美里著『JR上野駅公園口』にガクアジサイが出てきます。「雀の群れが何かに驚き、節分の豆をばら撒いたように飛び立つ。額紫陽花が咲いている。周りの薄紫の花が中央の濃く小さい紫の花の塊を額のように縁取っている。生きている時はそういうものが孤独を感じさせた。……不意の雨が落ち、(ホームレスの)コヤの天井のビニールシートを濡らす。雨が、雨の重みで落ちる。雨が降る夜は、雨音から耳を逸らすことが出来ず、眠ることが出来なかった。……一人息子が死んだ日も、雨が降っていた。(何か詩を読んでいるようなホームレスの自叙伝風の作品でしたね。)

(↑上の写真)左=オカトラノオ(丘虎の尾)、中・右=チダケサシ(乳茸刺)

(↑上の写真)左=ミソハギ(禊萩)咲きはじめの1株、中=ミズヒキ(水引)、右=キンミズヒキ(金水引)咲きはじめの1株

(↑上の写真)左=タケニグサ(竹煮草)、中=ウツボグサ(靭草)(花の終わり)、右=ワルナスビ(悪茄)