野楽力研究所

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東京薬科大学薬用植物園・・・令和4年11月10日

 東京薬科大学薬用植物園は平山城址公園から入れる入口があります。火・木曜日の9時から16時まで開園されています。コロナ禍の間、閉鎖されていましたが、現在は曜日限定で開園されています。本日、木曜日というので急遽、訪れました。いつの時季でもその時季にしか見られない植物が見られるので嬉しいです。今日は、ハナトリカブト、センブリ、キチジョウソウ、キッコウハグマ(残花)などの花を見ることができました。今日の様子です。

(↑上の写真)左=平山城址公園からの入口(東園、西園の境目)、中=右の方向に進むと植物園、右=薬用植物園の入口を入って左が見本園

 入口、上の写真のように訪れる人がいないときは門が閉じていますが、警備員さんが常駐しており、顔を出すと門を開けてくれます。記名し、入園証をもらって先の坂を下っていきます。 

(↑上の写真)どれもヒキオコシ

 ヒキオコシ(引き起こし)はシソ科ヤマハッカ属。別名延命草。APG牧野植物図鑑によると「北海道南部から本州、四国、九州および朝鮮半島に分布し、日当りのよい山野に生える多年草」とあります。ヒキオコシの名の由来は、「昔、弘法大師は、諸国行脚の道中、道端で、病に苦しみ、今にも死にそうに倒れ込んでいる旅人に出会いました。その時、弘法大師は近くに生えていたこの草の葉を旅人に与え、よく噛んで飲むように教えたところ、たちまち病が治り、旅人は、起き上がって元気に歩き出し、旅を続けた」という故事が語り継がれています。別名の延命草(エンメイソウ)は、弘法大師のこの話から名付けられたということです。多摩の山野では、葉の形が、しっぽを出した亀の姿に似ているカメバヒキオコシにはよく出会うのですが、本物のヒキオコシに出会ったことが無かったものですから、今日はビッグチャンスでした。草丈は1,5m近くあり、株は林立していました。まだ、花も残っており、ヒキオコシをここで観察するには、ラストチャンスと思います。

(↑上の写真)左・中=ハナトリカブト、右=クチナシ

 ハナトリカブトは10月13日のオオムラサキセンター農村公園のところで載せたトリカブトの別名がハナトリカブトです。ここ東京薬科大学薬用植物園の名札ではハナトリカブトと表示されていました。APG牧野植物図鑑では標準和名(多くの人が呼んでいる名)をトリカブトとし、ハナトリカブトを別名としています。

(↑上の写真)左=シマカンギク、中=見本園から自然観察路へ、右=自然観察路

(↑上の写真)左=キバナアキギリ(残花)、中=センブリ、右=オグルマ

 センブリ(千振)はリンドウ科センブリ属。別名トウヤク。APG牧野植物図鑑によると「日本各地および朝鮮半島から中国に分布し、日当りのよい山の林地に生える越年草」とあります。松田修著「花の文化史」には「センブリという名は千振りで、この茎葉は生薬として昔から利用され、その振り出した煎汁はとても苦く、千度振りだしてもなお苦いというのでこの名千振がある。この苦味分はゲンチアナという成分で、生薬として価値があるのでトウヤク(当薬)という別名がある」とあります。東京薬科大学は略して東薬(トウヤク)と呼ばれることがあるので、その薬用植物園で立派に育っているのはすばらしいことですね。

(↑上の写真)どれもキッコウハグマ、左=花、中=草姿、右=花と蕾と閉鎖花

 キッコウハグマ(亀甲白熊)はキク科モミジハグマ属。牧野植物図鑑によれば「北海道西南部から九州屋久島、および朝鮮半島に分布し、山地の木陰に生える多年草。名の由来は、葉の形が亀甲形で、花がハグマ(カシワバハグマ)に似ているという意味」とあります。1つの花のように見えますが、3つの花が合体した頭花で、タンポポの花(頭花)のようにたくさんの筒状花の集まりではなく、3つの筒状花の集まりということです。なお、この花は雄性先熟で雌しべより雄しべが先に熟し、雌しべが伸びてくるときには雄しべは花粉を無くしているということで自家受粉しないようにしているといいます。雌しべの柱頭はアゲハの幼虫が危険を察知するとだす臭角の形に似ていますが、上の写真には写っていないので、これから出てくるのでしょう。写真の細長い蕾はこの時期、閉鎖花の場合もあります。虫の少ない時期に咲く草花には種子づくりの担保として花を咲かせずに種子をつくるセンボンヤリ、スミレ、ホトケノザなどのように閉鎖花をつくるものがあります。まだまだこの小さな花には秘密がいっぱいです。

(↑上の写真)左=ムラサキシキブ、中=ヤブムラサキ、右=イヌザンショウ

(↑上の写真)左・中=シロヨメナ、右=カラスウリ

(↑上の写真)いずれもキチジョウソウ、左=花、中=実、右=花と実

 キチジョウソウ(吉祥草)はキジカクシ科キチジョウソウ属。別名は吉祥蘭、観音草。APG牧野植物図鑑によると「関東以西、四国、九州及び中国の暖帯に分布、樹林内の木陰に生える常緑多年草。花は秋から晩秋、両性花。紅紫色の球形液果を結び、翌年になっても残る」とあります。上の写真はタイミングよく、花と赤い液果の両方が写っています。めでたい花といわれ、その家に吉事があった時に花開くといわれているそうで、そのために吉祥草といわれています。朝井まかて著小説『実さえ花さえ』に「今日は肥料遣りをするつもりで、下作業から始める。草抜きである。雑草はまだ疎らであるが、水が温むにつれて旺盛に伸びる。おりんや小僧に委せると秋に仕込んだ売り物まで抜いてしまいかねないので、新次(なずな屋の主。育種の腕を磨いた花師)は一人で手を動かしていた。ふと、植えた覚えのない形の葉を見つけた。葉先をちぎって口に入れると、清らかな苦みが広がった。「観音草(吉祥草の別名)だ」育種というのはつまるところ土である。花や葉をいかに美しく壮健に仕立てられるかは、土の豊かさにかかっている」と。