野楽力研究所

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上野公園・不忍池周辺自然観察・・・令和4年9月29日

 東京地方は、朝夕、すっかり秋らしく、涼しくなりました。芸術の秋に上野を訪ねたついでに周辺の自然観察をしました。キンモクセイが香り、西郷さんの背景には青空が雲間に広がっていました。今日の上野の自然の様子です。

(↑上の写真)左=キンモクセイ、中=アキニレ、右=アキニレの木肌(樹皮)

 アキニレ(秋楡)はニレ科ニレ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「中部地方以西から琉球列島、及び朝鮮半島、台湾、中国の暖帯から亜熱帯に分布。山地や川岸に生える落葉高木。花は秋、若枝の葉腋につく」とあります。ハルニレとよく似ていますが、花が春と秋なので区別がつきます。花といっても目立たず、葉腋に小さく群がっています。上掲、中の写真は花が終わったところで、葉腋が何となく汚くなっています。若い緑の小さな新芽のように見えるのは種子を包む苞のような感じの翼になるもので、二枚一組で翼果を形成します。また、木肌は上掲右の写真のようにがさついています。ハルニレの木肌もがさついていますが、その様子は全く異なりますので、木肌で区別できたら最適です。 

(↑上の写真)どれもアメリデイゴ

 アメリデイゴ(亜米利加梯姑)はマメ科デイゴ属。説明板に「南アメリカ原産の落葉植物。別名カイコウズ(海紅豆)とも呼ばれ、上野公園では6~8月頃に赤い花を咲かせます。この木は鹿児島県の県木に指定されていますが、沖縄の県花デイゴ」とは別の種類です」とあります。今日は本来の開花時期と時期がずれていて残花になっていました。APG牧野植物図鑑スタンダード版には「熱帯アメリカ原産。日本へは明治の中頃導入された落葉低木、または小高木」とあります。熱帯の植物らしい真紅の花が印象的でした。

(↑上の写真)左=ヤマハギ、中=キョウチクトウ、右=ハナゾノツクバネウツギ(アベリア)

(↑上の写真)いずれもイスノキ

 イスノキ(柞の木)はマンサク科イスノキ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「本州西南部から琉球列島、台湾、中国に分布、暖地の山中に生える常緑高木」ということですから、東京ではなかなか見られませんから、上野公園のこの木が有名なわけです。漢字表記は「椅子の木」ではなく、「柞の木」です。「柞」という漢字は、クヌギやコナラを指すそうでハハソと読むそうです。別名はいろいろ地方によって異なり、ユスノキ、ヒョンノキ、ユシノキなどが代表的地方名のようです。Web:庭木図鑑「植木ペディア」によると「関東地方ではあまり馴染みのない木だが、関西以西の常緑樹林では普通に見られ、九州南部では森林を作る主要な樹種となっている。成長が遅くて材が緻密であり、弥生時代から農具の鋤などに使われ、材木としての価値の高い有用樹とされる。このため伐採が進み、天然の個体数は減少しているが、しっかりと根を張って枝葉を繁茂させるため、垣根や防風林として人工的に植栽される例は多い」とあります。この説明から、イスノキは椅子を作っても丈夫な立派なものがつくれそうですね。

(↑上の写真)左=西郷隆盛像、中=サンゴジュ、右=アオギリ

 サンゴジュ(珊瑚樹)はスイカズラ科ガマズミ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によれば「東海地方以西から琉球列島、朝鮮半島南部、台湾、中国、インドシナの温帯から亜熱帯に分布する常緑小高木」とあります。葉は、厚く水分を多く含み、火がついても泡をふくばかりで燃えにくいので火災の延焼を防ぐ防火樹として、また、防風・防音樹として生垣に用いられることが多いようです。サンゴジュという名は、秋に真っ赤に熟す果実が果柄まで赤くなるので、この姿をサンゴに見立てたのが由来といわれます。葉が虫に食べられたような食痕のある珊瑚樹が目立ちますが、サンゴジュハムシによるもので徹底駆除しないと毎年発生し、見られない姿になってしまいます。

(↑上の写真)左=カクレミノ、中=シマサルスベリ、右=シマサルスベリの木肌(樹皮)

(↑上の写真)左=彰義隊の墓、中=ナキリスゲ、右=エンジェル・トランペット(キダチチョウセンアサガオ

(↑上の写真)左=不忍池のハス、中=ハスの種子(ハチス)、右=弁天堂

(↑上の写真)左=ダンチク、中=ジュズダマ、右=イヌタデ

(↑上の写真)左と中=ヒガンバナ、右=ヤブラン

(↑上の写真)左=アキノノゲシ、中=タマスダレ、右=カラスウリ(未熟)

 アキノノゲシ(秋の野芥子、秋の野罌粟)はキク科チシャ属。アキノノゲシ属としている図鑑やWebが多いですが、APG新分類ではチシャ属というので従いました。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「北海道から九州、琉球列島および台湾や朝鮮半島、東南アジアに広く分布し、山野に多く生える大形の2年草」という。ウィキペディアによると「一年草または二年草という(土地の気候条件によって異なるのでしょう)。花は淡い黄色、直径2cmほどで舌状花だけでできている。葉に(深い)切れ込みがある」とあります。花の黄色が淡く一見嫋やかさを感じさせます。この辺りの感じを泉鏡花が「婦系図」で「夫の好みで白粉は濃いが、色は淡い。淡しとて、容色の劣る意味ではない。秋の花は春のと違って、艶を競い、美を誇る心がないから、日向より蔭に、昼より夜、日よりも月に風情があって、あはれが深く、趣が浅いのである。河野病院長医学士の内室、河野家の総領娘、道子の俤はそれであった」と道子の面影に重ねていたんですね。(小説ではアキノノゲシと特定していませんが、色合いの濃い春の草花のノゲシに比し、秋の草花のアキノノゲシのような薄黄色の色合いを道子に重ねて愛でているんですね。)