野楽力研究所

近くの自然で野楽力を高めましょう

東京都薬用植物園・・・令和4年9月17日

 台風で草花がなぎ倒される前に訪れることにしました。マンジュシャゲ彼岸花)、スイフヨウオミナエシカリガネソウ日本の忘れな草のシオンなどが最高の見ごろでした。今日の様子です。

(↑上の写真)左=入口、中=ヤマハギ(紅花)、右=ヤマハギ(白花)

(↑上の写真)左=スイフヨウ、中=オミナエシ、右=コガネバナ

(↑上の写真)左と中=(赤花)マンジュシャゲ、右=(白花)マンジュシャゲ

 (マンジュシャゲヒガンバナヒガンバナ彼岸花)はヒガンバナ科ヒガンバナ属。別名曼珠沙華。ここ薬用植物園では「マンジュシャゲ」と掲示されています。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「本州、四国、九州、および中国の暖帯、温帯に分布。堤防、墓地、路傍に多く生える多年草」とあります。髙樹のぶ子著 小説伊勢物語「業平」に「(在原業平は、長岡に母伊都内親王を訪ねて赴いた折、田子を真似て稲刈りを手伝う。その業平を見ようと衵(あこめ)を着た女童(めわらわめ)たちが笑い騒いでいる情景に)『おお、美しい姫君たち』と業平も笑みをかけます。このような清々しい景色は、田の畔に生え出た彼岸花の群れのようです。女童たちの後ろに、(長岡京だった)昔ながらのさほど大きくない邸がいくつも見渡せます」(母は、都での生活に疲れ果てて、昔懐かしい長岡へ移り住み、こうして息子業平が訪ねてくれたことや彼岸花の咲くのどかな長岡の風景の中で心を鎮めるのでした。)<一部翻案>。なお、マンジュシャゲ(曼殊沙華)は梵語で大きい赤い花という意味で仏教由来の名称ということです。

(↑上の写真)左=シオン、中=クズ、右=ノゲイトウ

 シオン(紫苑)はキク科シオン属。中国地方、九州、朝鮮半島、中国北東部、極東ロシアの山間の草地に生える多年草という。日本では今昔物語以前からシオンは「思いを忘れさせない草」として知られていたそうで、西洋のワスレナグサを覚える前に日本のワスレナグサであるシオンを覚えてほしいです。今昔物語の「兄弟二人、萱草・紫苑を植うる語」の中に「兄は親の墓に忘れ草の萱草を植えました。それ以来、兄は仕事の忙しさにかまけて親の墓参りをすっかり忘れていました。弟は、親の墓に忘れな草の紫苑を植えたので、いつまでも親の恩を忘れずに墓参りをしていました。ある墓参りの時、鬼が弟の前に現れ、彼の善根を愛で、お前に予知能力を与えようと言って、消えました。それ以来、弟は、未来を予知することができるようになり、不幸になることなく幸せに暮らしたということです(一部翻案)」とあります。地方に行くとこの時季、墓に紫苑が咲いている情景が見られます。シオンは2m位の草丈がありますから台風の強風が心配です。

(↑上の写真)左=ハッカ、中と右=イヌゴマ

(↑上の写真)左=ニラ、中=タチフウロ、右=ランタナ

 ランタナクマツヅラ科シチヘンゲ属。和名は七変化。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「熱帯アメリカ原産のやゝ蔓性の落葉低木」ということです。開花後、時間がたつにつれ花色が変わります。外側と内側では花色が黄色から橙色、濃赤色(内側が新しい)と変化するので和名では「七変化」といわれます。別名「紅黄花」とも。「ウィキペディア」によると「世界の侵略的外来種ワ-スト100に選定されている。熱帯・亜熱帯では広く野生化し、オーストラリアや東南アジアではやっかいな雑草として問題になっている」という。よく街中でも見かけますが、草ではなく木だったんですね。それに花色が黄色から濃赤色に変わるというのも育ててみないと分かりませんね。侵略的外来種ということですが、熱帯のものなので日本で冬を越すのは大変と思います。しかし、小笠原や沖縄では侵略的増殖をしているようです。要注意です。

(↑上の写真)左=カリガネソウ、中=トケイソウ、右=ハマナス

(↑上の写真)左=ニンジンボク、中=セイヨウニンジンボク、右=スズムシバナ

(↑上の写真)左=シュウメイギク、中=シラヤマギク、右=オオケタデ

(↑上の写真)左=ムラサキシキブ、中=ガマズミ、右=雑木林の園路

(↑上の写真)左=ゴンズイ、中=マユミ、右=ツリバナ

 上の写真の3種の植物の実はどれも似たような実で区別がつかないことがあるかも知れません。ツリバナは釣り糸の先に実が下がっているようにみえるのでツリバナ。これは理解しやすいでしょう。マユミは実が4つに分かれています。以前「恋人よ」を歌った五輪真弓(いつわまゆみ)という歌手がいましたが、この実は4つに分かれているので「4つは真弓=ヨツワマユミ」として覚えました。同じ真弓でもこれは「四輪真弓」ですよ、というわけです。ゴンズイは、山渓「樹に咲く花」に「材がもろくて役に立たないので、同じように役立たない魚ゴンズイの名が付けられたという」説が紹介されています。ところが、中村浩著「植物名の由来」によると「歌人として知られた持統天皇の歌に『天上の五衰の花も散るとかや』という句の五衰(仏教の言葉で、欲界の天人が臨終のときにあらわす五種の哀相)がゴンズイの語源」だとしています。三島由紀夫著「豊饒の海」の第四篇「天人五衰」にある五衰です。しかし、「ゴスイとは悲哀を表す忌名であるので、めでたい五瑞(ゴズイ)と実名忌避したと思われます。五の発音は「ゴ」または「ゴン」。つまり、ゴズイがゴンズイと変化したのではないか」とされています。皆さまは、どちらの考えに賛同されますか? 因みにゴンズイ=ミツバウツギ科ゴンズイ属。マユミとツリバナ=ニシキギニシキギ属。 

(↑上の写真)左=アメリノウゼンカズラ、中=モミジアオイ、右=ソクズ

(↑上の写真)どれもイヌマキの実

 イヌマキ(犬槇)はマキ科イヌマキ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によれば「関東南部以西の太平洋沿岸、四国、九州、琉球列島の暖帯林の中に生える高さ20mにもなる常緑高木。イヌマキコウヤマキ(ホンマキ)とともに、槇(真木)として最も有用な樹種とされたがコウヤマキよりは劣るという意味で犬の接頭語をつけた。耐水、耐朽性に強いので桶用材に用いる(一部翻案)」という。写真のように実は2段構えになっていて、上段の青色のものが種子で、下段の黄や赤、紫色の部分は果托といって種子を支えているものです。果托の部分は甘くて食べられます。鳥などがこの実をつまんで種子の部分をイヌマキの繁殖のために捨ててくれることを期待しているわけです。