野楽力研究所

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小石川植物園・・・令和4年7月28日 

 小石川植物園は、3代将軍徳川家光公の時(1638年)に麻布に造られた御薬園が始まりで、8代将軍吉宗公の時(1683年)小石川に移転され、現在とほぼ同じ約15万㎡に拡張、本格的に整備されました。翌年に養生所も開設され、井戸も整備されました。明治10年(1677年)には東京大学に付設され、現在に至っています(解説板による)。今日の様子です。

(↑上の写真)左=植物園入口、中=イトラン、右=ニュートンがリンゴが落花する様子から万有引力を考えついたというリンゴの木の子孫

(↑上の写真)左=カノコユリ、中=ミソハギ、右=オミナエシ

 オミナエシ(女郎花)はスイカズラオミナエシ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「北海道から九州の日当りのよい山野に生え、東アジアの温帯から暖帯に分布する多年草。根茎は太く横に伏し、株わきに新苗が分かれて繁殖する。和名はオトコエシに対し優しいので女性にたとえて言う」とあります。どういうところが優しいのか疑問が残りますね。丸山尚敏著「しなの植物考」には「稼ぎ頭の男が白米を食い、家を守る女が粟や稗を食べる。オトコエシの数多くつける小さな白い花を米花と呼び、白米に見立てて男飯(オトコメシ)、オミナエシの黄の粒つぶの花を粟花と呼び、粟や稗に見立てて女飯(オミナメシ)と呼んでいたものが変化してオトコエシ、オミナエシになったという説が紹介されています。森鴎外著『雁』に「土曜日に上条から(北千住の)父の所へ帰ってみると、もう二百十日が近いからと言って、篠竹をたくさん買ってきて、女郎花やら藤袴やらに一本一本それを立て副えて縛っていた。しかし、二百十日は無事に過ぎてしまった。それから二百二十日があぶないと云っていたがそれも無事に過ぎてしまった。しかし、そのころから毎日毎日雲のたたずまいが不穏になって、暴(あれ)模様に見える。折々また夏に戻ったかと思うような蒸し暑いことがある。巽(たつみ=南東)から吹く風が強くなりそうになってまた歇(や)む。父は二百十日が「なしくずし」になったのだと云っていた。」と、嵐の空模様に備える秋の風情が描かれています。

(↑上の写真)左=ハマオモト(ハマユウ)、中=養生所の井戸(史跡)、右=キクイモモドキ

 ハマオモト(浜万年青)別名ハマユウ(浜木綿)はヒガンバナ科ハマオモト属。「APG牧野植物図鑑スタンダード版」によれば「関東地方以西、四国、九州、琉球列島、済州島に分布し海岸の砂地に生える常緑の多年草」という。牧野富太郎著「植物一日一題」によると「茎のように見えるのは、葉鞘が巻重なって偽茎となったもの。従って木のようだが、木本でなく草本。種子はコルク質の種皮に包まれ海水に浮かび、彼岸に流れ着く。万葉集柿本人麻呂が浜木綿を詠んだ歌が載っている。浜木綿とは浜に生じているハマオモトの茎の衣を木綿(ユフ)に擬してそれで浜ユフといったものだ。ユフとは元来は楮(コウゾ)の皮をもって織った布である。万葉集の時代には、まだ綿は無かったから畢竟木綿を織物の名としてその字を借用したものにすぎないということを心に止めておかなくてはならない」(一部翻案)と書いています。因みに柿本人麻呂の歌は、Web「万葉集ナビ」によると第4巻 496番歌「み熊野の浦の浜木綿百重なす心は思へど直に逢はぬかも」口語訳は「熊野の浦の浜木綿の葉が幾重にも重なっている。そのように逢いたくて逢いたくてたまらないが、旅路にある身。直接逢えないのが無念だ」

(↑上の写真)左=トウフジウツギ、中=タイワンニンジンボク、右=東京医学校の建物(史跡)

(↑上の写真)左=日本庭園、中=エンジュの木遠望、右=エンジュの花

 エンジュ(槐)はマメ科エンジュ属。「APG牧野植物図鑑スタンダード版」によると「街路樹や庭木として植栽される落葉高木。中国原産で日本へは仏教の伝来と同時に渡来したといわれる。高さ15~25m、花は夏から秋、枝先に複総状花序をつくり、花の長さは12~15mm。花の色素はルチンを含み実とともに薬用。また黄色染料にする。中国では尊貴の樹とされ、三公の位を槐位(かいい)という」とあります。葉室麟著『緋の天空』に槐が出てきます。「(奈良の都)大路を行く人々は思わず、足を止めて(弓削清人が吹く龍笛)笛の音色に耳を傾けた。ゆったりと進んでいく黒牛が(街路樹の)槐(えんじゅ)のそばを通りかかった時、清人は槐の枝を見て、くすりと笑い、息を大きく吸い、ひときわ高い音色を出した。すると、槐の幹につかまり、あたかも枝のように見えていた唐鬼の姿が現れた。大路の人々はそれまで槐の木にひとが登っていることに気づかなかっただけに、驚きの目を向けた。唐鬼は苦い顔をして槐から飛び降りた。清人が素知らぬ顔で過ぎていくのを見つめながら、唐鬼は、小僧め、わしの隠形(おんぎょう)を破りおった、と口惜しげにつぶやいた。またしても、つむじ風が土埃を巻き上げた」と。似ている樹にハリエンジュ(ニセアカシア)がありますが、ニセアカシアだったら棘が幹や枝にありますからおちおち隠形(おんぎょう)で隠れてはいられませんね。槐でよかったです。

(↑上の写真)左=イヌビワの実、中=ハナズオウの実、右=ヨウシュヤマゴボウの実

(↓以下温室の様子)

(↑上の写真)左=温室正面入口、中=温室外観、右=温室内部

(↑上の写真)左=ベニヒモノキ、中=ゲンペイクサギ、右=クルマユリ(温室内冷温室にて)