野楽力研究所

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野川公園自然観察園・・・令和3年10月23日

 久し振りの秋空が広がりました。野川公園自然観察園に秋の深まりを感じてきました。ビナンカズラ(サネカズラ)やガマズミの実は、真っ赤に熟しています。シュウメイギク、ユウガギク、シラヤマギクも最後の輝きを見せていました。今日の様子です。

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(↑上の写真)左=自然観察園入り口、中=サネカズラ(別名:ビナンカズラ)、右=ガマズミ

 サネカズラ(実葛・真葛)は、マツブサ科サネカズラ属。関東から南の山地に生える常緑つる性木本。別名はビナンカズラ(美男葛)、美男葛は、つるを水に浸し、その粘液で鬢づけし、光沢を出し、男らしさを演出したものです。ビンツケカズラ(鬢付葛)ともいわれます。(三島由紀夫著「豊饒の海1:春の雪」に)<聡子が母親の伯爵夫人と奈良の月修寺の門跡に春の宴のお礼がてら会いに参詣した折、この時、すでに聡子は剃髪することを決意していました。>「道野辺の草紅葉さえ乏しく、西の大根畑や東の竹藪の青さばかりが目立った。大根畑のひしめく緑の煩瑣な葉は、日に透かした影を重ねていた。やがて西側に沼を隔てる茶垣の一連がはじまったが、赤い実をつけた美男葛が絡まる垣の上から、大きな沼の澱みが見られた。ここをすぎると、道はたちまち暗み、立ち並ぶ老杉のかげへ入った。<この景色の陰翳が聡子の気持ちをぐんと深めていったに違いありませんね。美男葛の赤い実は聡子の目を強く射ていたはずです。> 

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(↑上の写真)左=シュウメイギク、中=ユウガギク、右=シラヤマギク 

 石坂洋次郎著「山のかなたに」に出てくる白い野菊はユウガギクでしょうか?ユウガギク(柚香菊)はキク科シオン属。近畿地方以北の日当たりのよい山野に生える多年草。上部で斜めに大きく開出するように枝を分ける。「山のかなた」より(志村高一は、裁縫の先生をしている井上美佐子の父の連隊の部下で、その父から、美佐子を嫁にもらってほしいと言われていた。美佐子にはその気はない。そのうち、志村は、美佐子の裁縫の生徒の林タケ子が好きになる。)間もなく、丘の上に、志村とタケ子が姿を現した。タケ子はピンクのワンピースの上に、エビ茶の羅紗地の上衣をはおり、途中で摘んだらしい白い野菊を髪にさしていた。手にも一本もっており、のびのびした、楽しそうな顔をしている。それの寄り添う志村は、見るからに窮屈そうな恰好をしていた。「いい見晴らしねえ。せいせいするわ」と、タケ子は手にした野菊をクルクルまわしながら、街の方を眺めて、うっとりとつぶやいた。「そうです。せいせいします」と、志村は重苦しそうに言った。「ホラ、志村さん」と、タケ子は男の胸に片手を当てて、野菊で街の方をさしながら、「あの、屋根のピカピカ光ってる建物、あれなんだったかしら…?」「あれは・・・病院でしょう」「そお。あんな方角かしら・・・ああ、この花、志村さんも胸につけてよ」タケ子は志村にすれすれに寄り添って、背広の襟の穴に、長い茎をちぎった野菊をさしてやった。少し赤味がかった髪の毛に日光がさして、毛の一筋々々に若い女の生命が光っているようだった。ダラリと両手を垂れて、髪の毛で鼻先をくすぐられている志村は、いきなり指揮刀を抜いて(そんなものは、ありはしなかったが)「嫁になれェ」と、号令を下したい衝動に駆られた。(しかし、彼はぐっと堪えて、下の窪地に坐ろう、と誘う。女性は解放されて積極的になり、男性は自信を失って、女性に煽られる戦後すぐの時代背景が偲ばれますね。この小説の野菊は花柄が丈夫で長く、襟の穴や髪に差し込める長さが十分ある白い野菊というのですからユウガギクと考えましたが、どうでしょうか。)

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(↑上の写真)左=ミズヒキ、中=ギンミズヒキ、右=ノダケ

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(↑上の写真)左=ゲンノショウコ、中=ヤマハッカ、右=イヌタデ

 ゲンノショウコ(現の証拠)はフウロソウ科フウロソウ属。別名ミコシグサ。日本の山野に普通に生える多年草。花は夏から秋に咲き、東日本では白色に近い淡紫色、西日本では紅紫色で径1~1,5cm。この茎葉を陰干しにして煎じて飲むと下痢がすぐに治まるという効果が現れるので「現に証拠が現れる」「現の証拠」ということで「ゲンノショウコ」といわれる。薬用成分はゲラニインと呼ばれるタンニンの一種。紅花、白花のどちらでも薬効には差がないという。茶としても飲用する。飲み過ぎても便秘を引き起こしたりせず、優秀な整腸生薬であることから、「医者いらず」ともいわれている。秋に種子を飛散させた後で果柄を立てた様が神輿のように見えることから、ミコシグサ(神輿草)とも呼ばれます。

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(↑上の写真)左=ヤマホトトギス、中=トネアザミ、右=ツリフネソウ

  アザミ(薊)はキク科アザミ属の植物全体を指すので、アザミという名の植物は無いそうです。トネアザミ(利根薊)は群馬県利根に因んだ命名で、関東地方北部から中部地方にかけての太平洋側の山地帯や低地の林縁に生える多年草。花期は夏から秋。写真のように頭花は紅紫色で総状につき、下向き、花柄が短いのが特徴です。(川端康成著の官能的な小説「眠れる美女」に)京都に着いた江口とその娘とは朝早く竹林の道を歩いた。竹の葉は朝日を受けて銀色に輝きそよいでいた。竹林の片側の畔には、あざみと露草とが咲いていた。そういう道が浮かんでくる。竹林の道を過ぎて、清い流れを遡ってゆくと、滝がとうとうと落ちていて、日の光にきらめくしぶきを上げ、しぶきの中に裸身の娘が立っている。そんなことは、ありはしなかったのだが、江口老人にはいつからかあったものと思われる。<有閑老人の夢想を満たすに十分な設定でした。あざみは、紅紫色の可愛い花ですが、触るには刺に注意しなければなりませんね。露草の青紫の楚々とした花の様子は、有閑老人好みの娘には相応しい雰囲気を醸していましたね。>

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(↑上の写真)左=イガオナモミ、中=スズメウリ、右=コムラサキ

 イガオナモミ(毬葈耳、毬雄奈毛美、毬雄菜揉み)はキク科オナモミ属。原産地ははっきり判らないようですが、APG牧野植物図鑑Ⅱによると南アメリカ原産とみられるとあります。大形の帰化植物一年草草本。高さ1,5m位。葉は互生し、全体が卵形、基部は深い心形で鋸歯縁がある。花序は雌雄が別で、枝端や葉腋に群生する。雌花序は刺の多い楕円形で、刺は鋭く、先端は鉤状に曲がる。熟時には集合果全体が黄色帯びた褐色を呈し、和名のイガはとげの意ということです。