山梨県北杜市のオオムラサキセンター農村公園を訪れました。時節柄、訪れる人が全く無く、じっくり自然観察です。水辺にはコウホネ、リュウキンカ、カキツバタ、キショウブの花が咲き、園路にはホタルカズラが足元に咲いていました。今日の様子です。



(↑上の写真)左=水車小屋のある農村公園の風景、中=コウホネ、右=リュウキンカ



(↑上の写真)どれもマムシグサ、仏炎苞が左と中=暗紫色、右=数の少ない緑色
マムシグサ(蝮草)はサトイモ科テンナンショウ属の多年草。北海道から九州にかけて分布し、山地や原野の湿った林床に生え、日本には同属の自生種が30種ほどあるそうです。(多田多恵子著『したたかな植物たち』より翻案)マムシグサは雌雄異株なので花が咲き終わると、実を結ぶのは雌株のみ。仏炎苞の中にちょっと顔を見せている花軸の先端の付属体と呼ばれる棍棒状のものは、特殊な臭いを放ち、キノコバエの仲間をおびき寄せます。この匂いにキノコバエは、ふらふらと酩酊し、仏炎苞の筒状になった底の方に転落していきます。それが雄株だったら、転落した先に雄花が花粉を出していて、キノコバエは、酩酊状態で飛び回り、花粉まみれとなります。酩酊から覚めると底の方に逃げられる孔(あな)が用意されていて、孔から飛んで逃げます。花粉まみれとなって必死に逃げだしたキノコバエは、今度は雌株の付属体の匂いに、またもやふらふらと酩酊し、雌株では奈落の底となる仏炎苞の筒状の底に転げ落ちます。そこに雌花の柱頭がたくさん突き出ていて、ふらふら酩酊して動いているうちに、雄株で花粉まみれとなった花粉を結果的に柱頭にこすりつけることになり、マムシグサの戦略による受粉が完成することになります。キノコバエは酩酊から覚めて、逃げようとしますが、雌株には雄株と違って逃げられる孔が用意されていません。徹底的に花粉を剥ぎ取られるわけです。孔がないなら上に逃げようとしても労力を使い果たしてふらふらで、却って付属体の下にある鼠返しのために奈落の底に跳ね返され、キノコバエはそこで一生を終えるというわけです。そのうちできるマムシグサの赤い実の陰には、隠された残酷物語があるんですね。



(↑上の写真)左=ホタルカズラ、中=ウシハコベ、右=キショウブ
ホタルカズラ(蛍蔓)はムラサキ科ムラサキ属。日本全国の山野の乾燥地や林中の半日陰の草地に生える多年草。別名蛍草。紫色の花弁には目立つ白い稜があり、その対比が見事で、緑の草の中の蛍の光に譬え、走出枝で増えるので蛍蔓と名づけられたようです。澤田ふじ子著『羅城門』に蛍草が出てきます。(秦高成によって気を狂わされたもず女の夫、真継が殺されたことに端を発した飛騨番匠たちの暴動が平定されてしまって)「なすべきことも果たさずに、矢を射かけるとは、外道の仕打ちじゃ。これでは、真継も死んだ五百枝(いおえ)たちも浮かばれまい……」平湯の蔵六は、もず女がふと小腰をかがめ、蛍草を摘むのを見てつぶやいた。古川の安国など、先き程から、穴麻呂の徒党に加わり、大きな騒動をひき起こしてやりたいと口走っている。(番匠たちの緊張の中で、気が触れたもず女が独り無心に蛍草を摘んでいる。)著者は、蛍のように輝く蛍草を気が触れたもず女に癒しとして無心に摘ませたかったんですね。



(↑上の写真)左=ササバギンラン、中=カキドオシ、右=クサノオウ



(↑上の写真)左=オヘビイチゴ、中=ミツバツチグリ、右=ヤブヘビイチゴ



(↑上の写真)左=ギシギシ、中=スギナ、右=オオムラサキセンター入口