野楽力研究所

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東京都薬用植物園・・・令和2年7月10日

 梅雨空が続き、身体が太陽を求めています。気持ちも、うずうずしてきました。今日も雨降りですが、空が少し明るくなってきましたので、薬用植物園に出掛けました。今の季節のキキョウ、ソクズ、ミソハギノカンゾウヤマユリなどが迎えてくれました。今日の様子です。

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(↑上の写真)左=薬草園入口、中=ミソハギ、右=メハジキ

 ミソハギ(禊萩)はミソハギミソハギ属の多年草。ちょうど旧盆の頃咲くので盆花とされ、ご先祖が戻ってこられる依り代として用いたり、禊萩を濡らして払い、その雫で身や供え物を清めたりしたということです。和名は禊萩(みそぎはぎ)が略されて「ミソハギ」になったということです。東京のここ薬用植物園では今咲いていますので、東京のミソハギ新暦のお盆に合うようです。新潟県長岡市にある「雪国植物園」発行の「雪国植物園の花々300選」では、7月下旬から9月上旬がミソハギの花の時期ということですので、旧盆でOKということですね。

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(↑上の写真)左=ヤマユリ、中=ノカンゾウ、右=ヤブカンゾウ

 ノカンゾウ(野萱草)は、ユリ科でしたが、APG新分類でススキノキ科ワスレグサ属となりました。本州、四国、九州の原野に生える多年草ノカンゾウは、野の萱草で、生薬として用いられるマメ科の甘草とは漢字も種も違います。山梨県塩山にある甘草屋敷はマメ科の甘草を栽培しています。新分類で気になるのがススキノキ科です。ススキノキは日本ではなじみがありませんが、オーストラリアに生える、ススキよりもっと葉が細く蔟る2m弱の木ということです。ワスレグサ属というのも気になります。ワスレナグサではなくワスレグサです。日本や中国ではノカンゾウをワスレグサと呼ぶようです。今昔物語にワスレナグサのシオン(紫苑)とともにワスレグサのノカンゾウ(野萱草)の話が出てきます。親の墓参りに野萱草を植えた兄は、その後墓参りを忘れ、紫苑を植えた弟は墓参りを忘れませんでした。墓守の鬼が現れ、弟が忘れずに墓参りをする彼の善根を愛で、お前に予知能力を与えようと言って、消えました。それ以来、弟は、未来を予知することができるようになり、幸せに暮らしたということです。このことがあって、思い出を忘れたい人は萱草を、忘れたくない人は紫苑を植えるようになったということです。

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(↑上の写真)左=マツムシソウ、中=キキョウ、右=ウツボグサ(花終わり)

 キキョウ(桔梗)はキキョウ科キキョウ属、東アジアの日当たりのよい草原に分布する多年草。今ではこのような草原が少なくなり、日本では自生のものは、絶滅危惧種となっています。桔梗は漢名で音読み「キチコウ」が転訛したということですが、古くは万葉集の時代から「あさがほ」として歌に詠まれてきました。木下武司著「万葉集・植物散歩図鑑」によると「万葉集巻十2104 詠み人知らず『朝顔は 朝露負ひて 咲くといへど 夕影にこそ 咲き勝りけれ』とうことから、夕方になって、むしろ咲き勝っているということなので現代の『朝顔』ではないということ、平安時代の『新撰字鏡』が桔梗に『あさがほ』と訓をつけていること、江戸時代まで『ムクゲ』と考えられていたそうですが、日本ではムクゲは野生化していないので、秋の七草に読み込まれるはずがない、ということから、『あさがほ』は『ききょう(桔梗)』のことを指すというのが正しいようです」と書かれています。今はほとんどこの説の様です。

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(↑上の写真)左=オオハンゲ、中=クララ、右=クルマバナ

 クララ(眩草)はマメ科クララ属の本州、四国、九州の日当たりの良い草原に自生する多年草ウィキペディアによれば和名の由来は、「根を噛むとクラクラするほど苦いことから、眩草(くららぐさ)と呼ばれ、これが転じてクララと呼ばれるようになったといわれる」ということです。全草有毒で、根の部分の毒性は強く、人では口にすると死に至るということです。放牧地などでは牛も食べないので、草原にこのクララが大株を作っている光景が広がっていたといわれます。そのためクララのみを食草とするオオルリシジミというシジミチョウには絶好の繁殖地となっていたのです。が、放牧地が放棄され、草が生い茂り、クララも減少するとオオルリシジミは激減し、今では生息地域が狭まり、絶滅危惧種になっています。保護地域では、野焼きを復活させています。野焼きでは、根の残るクララと土中で越冬するオオルリシジミの蛹の保護となり、オオルリシジミに寄生する寄生蜂を焼き殺すのに役立つということです。写真のクララは花穂が小さいですが、7月2日の「つどいの里」でのクララをご覧いただければ花穂の本来の大きさが分かると思います。

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(↑上の写真)左=ソクズ、中=トウキ、右=ニンジンボク

 ソクズ(蒴藋)=(スイカズラ科でしたが新分類では)レンプクソウ科ニワトコ属の多年生草本、高さは1.5mほどになり、木本と見間違えそうです。別名クサニワトコ。木本のニワトコに似ていますが、ニワトコは春に、ソクズは夏に花が咲くので、今咲いているのは間違いなくソクズ。花穂の様子は、ニワトコが盛り上がった山の感じですが、ソクズは平らな皿の感じです。名前の由来は、牧野植物図鑑では「漢名の蒴藋(さくだく)の字音から転訛したものであるというが、またはクサニワトコの古名クサクズ(草状のニワトコの意)の転音であるかも知れない」と記しています。冨成忠夫著「山渓:野草ハンドブック:夏の花」では「ソクズは中国名蒴藋(さくだく)が変化したものである」と断定しています。「さくだく」が「ソクズ」に転訛したとは、急には首肯できませんが、どうでしょうか。

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(↑上の写真)左=モミジガサ、中=ヤマホタルブクロ、右=イブキジャコウソウ

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(↑上の写真)左=オオケタデ、中=オオボウシバナ(ツユクサの園芸種)、右=クマツヅラ

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(↑上の写真)左=ヒトツバハギ、中=キクイモモドキ、右=園内雑木林風景