日野市立南平丘陵公園から多摩動物園のフェンスに沿った尾根道「かたらいの路」を通って都立七生公園(南平地区)と(程久保地区)を自然観察しました。キンラン・ジュウニヒトエが終わりを迎え、タツナミソウがどこの地区でも満開に咲き誇っていました。コアジサイが咲きはじめ、鳥に食べられずに立派に赤い実をつけているウグイスカグラが目立ちました。南平丘陵公園で草刈りをしている方から、ホウノキの花が咲いていますよ、と教えていただきました。今日の様子です。
(1)南平丘陵公園にて
(↑上の写真)左=ハナイカダの実、中=マルバウツギ、右=瓢箪池とあずま屋
(↑上の写真)左=キショウブ、中=タツナミソウ、右=フタリシズカ
タツナミソウ(立浪草)はシソ科タツナミソウ属。花が咲くようすが、泡立って寄せてくる波を思わせるのでついたという。牧野植物図鑑では「泡立つ波」と表現しているので、多くの図鑑がその表現を倣っているようです。しかし、この立浪草をみて想像力を膨らませ、葛飾北斎の「富嶽三十六景神奈川沖浪裏」を思い出さないでしょうか。波ではなく浪とするなら、なおさらです。恐ろしい浪を可憐に淡い赤紫に写し出したのが立浪草とするといっそう花への愛おしさが増してくるように思います。丸山尚敏著:山渓「野に咲く花Ⅰ」に、「不如帰」の武雄のモデルになった大山巌元帥の子息と浪子の比翼の墓が西那須野の元帥の墓地内に建てられているという。昭和17年4月米軍による本土への初めての爆弾が墓地の近くに投下された。ちょうどその時、居合わせた著者が砲弾跡を見に行った時、そばに立浪草がまだ堅い蕾をつけて生えていた、と印象を留めています。
(↑上の写真)左=ニョイスミレ、中=ムサシアブミ、右=マムシグサ
ニョイスミレ(如意菫)は、スミレ科スミレ属。別名ツボスミレ(坪菫)。ウィキペディアでは、坪菫の坪は庭の意味で、坪菫は庭に普通に咲いている菫一般を古くから指していたということです。ところが牧野富太郎博士がどうしてか牧野植物図鑑で「ツボを陶器の壺と解釈し、花形が壺に似ているためとするのはよくない。ツボスミレの名は不純で紛らわしい」として「葉形が仏具の如意に似ているのでニョイスミレと筆者が命名しなおした」と主張されたので、現在、ニョイスミレ、ツボスミレが和名として併用されるようになってしまっています。タチツボスミレが早春の山野に紫の花を咲かせているので、ツボスミレは、立ちあがらないスミレ、と解釈していました。タチツボスミレの付近にツボスミレも咲いているのではないかと探し回ったこともありましたが、咲く時期が違うんですね。今がツボスミレ、ニョイスミレの花の時期というわけです。花自体は、色も大きさも全く違うので間違えることはないと思います。ところで、夏目漱石著「草枕」十に、「(鏡が池にて)うららかな春の日を受けて、萌え出でた下草さえある。壺菫の淡き影が、ちらりちらりとその間に見える。日本の菫は眠っている感じである。『天来の奇想のように』と形容した西人の句は到底あてはまるまい。」と日本本来の種類を問わない坪菫の意味で使っているようです。
(2)かたらいの路にて
(↑上の写真)左=アマドコロ、中=キンラン、右=チゴユリの実
(↑上の写真)左=タツナミソウ、中=マルバウツギ、右=キンラン(フェンスは多摩動物公園)
(3)都立七生公園南平地区にて
(↑上の写真)左=コアジサイ、中=ウグイスカグラ、右=(最後の)ジュウニヒトエ
(↑上の写真)左=フタリシズカ、中=ニョイスミレ、右=タツナミソウ
フタリシズカ(二人静)はセンリョウ科センリョウ属。一人静の花が終わると咲き始める二人静。花びらは無く、白い雄しべ(内側に花粉がついている)が雌しべを直接包み込んでいる形の花が花軸に並んでいる。謡曲「二人静」に、神事に供える若菜を摘んでいた菜摘女の前に罪業消滅の写経を頼みに里女(実は静御前の霊)が現れる。神職に報告に帰ると忽ち菜摘女は霊にとり憑かれる。神職の誰何に霊は「判官殿に仕えた者」という。それなら静御前であろうと推量し、昔、静御前が着ていた装束が宝蔵にあるというので、取り出し、憑依した菜摘女に着せると忽ち同装の静御前が現れ、影の形に添うごとく二人の女が立ち並んで舞い、過去を語り、舞い終えると静御前の霊は、回向を頼んで静かに消え去った、という。そんな話を思い出しながらこの花を眺めると、また趣が出てくると思います。
(↑上の写真)左=キンラン、中=ジシバリ、右=ニガナ
(4)都立七生公園程久保地区にて
(↑上の写真)左=カキツバタ、中=ヘラオモダカ、右=オニノヤガラ
オニノヤガラ(鬼の矢柄)はラン科オニノヤガラ属の多年草。腐生植物。葉のないランでジャガイモのような塊茎をつくる。光合成を行わず、ナラタケ属の菌に寄生して養分を得る(菌従属栄養性)という特殊な生活をしているそうです。一般的には塊茎は開花した年に消滅しますが,表面に小さな芽を生じ,その芽が数年間地中で生育し肥大した後に,再び花茎を伸ばして花をつけるそうです。ナラタケ属の菌類とオニノヤガラとは複雑な共生関係をしているようで、オニノヤガラを漢方薬として使用する中国では、その栽培方法が相当研究されているようで、日本は技術的にも値段的にも太刀打ちできないとのことです。(日光東大植物園など多数のWeb参照)
(↑上の写真)左=フタリシズカ、中=キンラン、右=ウグイスカグラ
(↑上の写真)左=ジシバリ、中=ヨツバムグラ、右=アマガエル