野楽力研究所

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白馬五竜高山植物園・・・令和4年8月19日

 北アルプスの白馬岳と五竜岳が眺望できる高山植物園ということで白馬五竜高山植物園と名づけられました。五竜テレキャビンのアルプス平山頂駅は標高1515m。乗車駅とおみ駅は標高818mですから、標高差700mをテレキャビンは8分で登ります。空には夏雲が湧きたっていますが、8月も半ばを過ぎると多くの花が盛りを終えています。そのような中でカライトソウ、コマクサ、シナノナデシコ、ホツツジなどがきれいに咲いています。今日の様子です。<写真をクリックすると拡大されます>

(↑上の写真)左=夏空の広がるとおみ駅前、中=とおみ駅、右=テレキャビンからの眺め

(↑上の写真)左=山頂アルプス平駅前、中=ヤマルリトラノオ、右=コオニユリ

 図鑑にはヤマトラノオ、ルリトラノオは載っているがヤマルリトラノオ(山瑠璃虎尾)は載っていない。両者の交雑種と考えたい。いずれにしてもオオバコ科クワガタソウ属。Web検索で調べると(Web:Tore -Teito com.)「ヤマルリトラノオは、亜高山帯の草原に生える多年草。まずクガイソウに似ているが、ヤマルリトラノオは葉が対生するので見分けられる、クガイソウは輪生する。また、同じような環境には、ヤマトラノオやその変種のヒメトラノオも生えるが、ヤマルリトラノオは、葉柄がはっきりしているので識別できる。ヤマルリトラノオは主に多雪地帯の亜高山帯に生えるのも目安になる」とあるので参考にしたい。葉柄がはっきりしているというが、どうだろうか。ここの高山植物園ではヤマルリトラノオとして名前を掲出している。8月18日の乙女高原のヒメトラノオの解説で「葉柄状の柄」ということで説明されたが、同じことで納得したい。

(↑上の写真)左・中=カライトソウ、右=ヤマユリ

(↑上の写真)左=シナノナデシコ、中=ツリガネニンジン、右=チングルマ

 シナノナデシコ信濃撫子)はナデシコナデシコ属。信州(信濃)を中心に中部地方の山地の高原や河原などの礫地に生える多年草。ここ高山植物園の説明板によると「国内でも長野県内に多く長野県のものが基準標本とされる日本固有種。学名にもシナノがついています。可愛い姿ながらも、石の多いところに生育する強い植物でもあります」ということです。因みに学名は「Dianthus shinanensis(シナネンシス)」。この花の名前の由来を知るまでは、すっかり「支那ナデシコ」と思っていました。日本固有種なんですね。

(↑上の写真)左=アカモノ(実)、中=シラタマノキ(実)、右=夏空と高山植物

(↑上の写真)左=アサギリソウ、中=タカネマツムシソウ、右=キバナノヤマオダマキ   

 アサギリソウ(朝霧草)はキク科ヨモギ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「北陸地方から東北、北海道および南千島、サハリンの高山や岩場に生える多年草」という。如何にも朝霧という感じの草姿・色ですね。朝霧というと朝霧高原が思い出されますが「ウィキペディア」によると「(朝霧高原は)富士山西麓の標高700-1,000 mに広がる高原である。朝に霧が発生しやすいことからこの名前がついたとされ、文久元年の『駿河志料』に『天子ヶ嶽の麓の郊原茅野を朝霧ケ原、又長者ケ原と云』とある」ということです。昔から朝霧は興味の対象のようです。朝霧高原も朝霧草も驚いていると思いますが、正に朝霧を彷彿とさせるような命名と思います。間もなく花が咲きますが、ヨモギ属ですから、期待するほどの花ではありませんが、ヤブタバコの花をもっと小形にしたような花をたくさんつけます。

(↑上の写真:どれもコマクサ)左=ピンクの花、中=ピンクと白花、右=白花 

 コマクサ(駒草)はケシ科コマクサ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「中部地方以北、北海道、千島、サハリン、東シベリアの寒帯に分布。高山帯の砂礫地に生える多年草。葉は根生。花は夏、花茎を出し長さ2cm位の花を1~数個垂れ下げる。和名「駒草」は花の形が馬の顔に似ることから」という。湯浅浩史著「花おりおり」によると「青白い葉とピンクの花のコントラストが絶妙で、高山植物の女王の名にふさわしい。ケシ科だが、北海道の大雪山系ではウスバキチョウの幼虫の食草となる」とあります。ここではピンクと真っ白の花がたくさん植栽されています。馬面というと圓楽を思い出しますが、駒草というと上品な娘さんの顔が思いだされますね。今回はタイミングよく、いい花をたくさん見ることができました。

(↑上の写真)左=キンレイカ、中=アキノキリンソウ、右=ヤナギラン

(↑上の写真)左=タカネナデシコ、中=クサボタン、右=イワショウブ

 クサボタン(草牡丹)はキンポウゲ科センニンソウ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「本州の山地に生える落葉低木。高さ1mくらい。葉は対生、3出複葉。花は秋、下向きに開き、雌雄異株。花弁はない。萼片4枚、長さ12~20mm。外面は白色の絹毛を被り、内面は紫色」という。筒状の花弁のように見えるものは4枚の萼片ということでしょう。このことを明確にしている図鑑は少ないです。佐藤邦雄著「軽井沢植物園の花」によると「北海道(渡島支庁)、本州の山地の林や草原に生える雑居性の落葉亜低木。茎は、木質で直立し、高さ1mほどになる。花期は8~9月。花は淡紫色で下向きにつく。花弁は欠存。日本に固有」とあります。花弁は欠存ということですから、花弁のように見えるものは萼片が変化したものといいたいのでしょう。日本固有種としています。牧野新日本植物図鑑によると「本種は木本であるが、全体の様子は草本のようであるからクサといった。草牡丹というのは、葉が牡丹のようであるからである」としています。

(↑上の写真)左=フシグロセンノウ、中=ユウスゲ、右=ヤマハハコ

 ユウスゲ(夕菅)はススキノキ科ワスレグサ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「本州中部、九州の山地の草原に生える多年草。夕方から開花し翌日の午前中に萎むのでこの名がある。やや芳香がある」とあります。ウィキペディアによると「別名が、キスゲ」とあります。キスゲにしては花の黄色が淡く、レモン色です。その説明に「花ではアントシアニンは合成されず、花弁は赤味を帯びない」とあります。これに関した詳しい説明書きは手元の資料にはありませんが、花弁がレモン色なのは、まず、こういうことだろうと思います。

乙女高原・・・令和4年8月18日

 甲府駅の北、恵林寺の北西方向、自然は豊かですが、交通不便で訪れる人も少なく、ゆっくり自然観察ができます。シモツケソウもシモツケも終わり、ヒヨドリバナ、ヒメトラノオ、コウリンカが咲き、これからは楊貴妃を呼び戻したというハンゴンソウ(反魂草)が咲きはじめます。今日の様子です。

(↑上の写真)左=駐車場からの眺め、中=カワラナデシコ、右=ヒメトラノオ

 ヒメトラノオ(姫虎尾)はオオバコ科(以前はゴマノハグサ科)クワガタソウ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「北東アジアの冷温帯に分布。本州中部と四国、九州北部の草原に生える多年草。葉が細く、基部に短い柄を持つ」という。上の写真では柄を持っていないように見えるが、園内の解説板の写真ではヒメトラノオと掲出してある。同上図鑑では、葉の幅が広く柄のないものをヤマトラノオという。山渓カラー名鑑「日本の野草」では「葉は対生し、狭披針形基部は短い葉柄状となる。母種のヤマトラノオは、葉の幅が広い」とある。葉柄状というのを写真のようなことと考えれば、母種がヤマトラノオであり、了解したい。

(↑上の写真)左=シラヤマギク、中=ノコギリソウ、右=ヤマハギ

(↑上の写真)左=ヤナギラン、中=ヒヨドリバナ、右=ヨツバヒヨドリ

(↑上の写真:いずれもマツムシソウ)左=花、中=つぼみ、右=果実(たね) 

 マツムシソウ松虫草)については8月5日「八千穂高原花木園」で記載しましたが、その中で名前の由来は、中村浩著「植物名の由来」を引用し「仏具にある伏鉦(ふせがね)、俗称松虫鉦(または単に松虫)は、その形がマツムシソウの花が咲き終わった後の坊主頭のような果実の形にそっくりなので、植物のマツムシソウという名は、その果実の形が松虫鉦の形に似ていることに由来している。松虫鉦という鉦(かね)の名は、叩いて出る音が松虫の鳴き声に似ていることに由来する(原文翻案)」と解説しました。ここではその理解を助けるためにマツムシソウの花、つぼみ、果実の様子を並べてみました。

(↑上の写真)左=タムラソウ、中=オミナエシ、右=コウリンカ

 コウリンカ(紅輪花)はキク科オカオグルマ属。本州の日当たりのよい山地の草原に生える多年草。花の周囲の舌状花は、咲くとすぐに写真のように反り返る。和名紅輪花は、花の色と舌状花が車輪状になっているからという。山渓カラー名鑑「日本の野草」によると、「九州の山地に分布しているタカネコウリンギク(を母種とする)の変種とされる」という。一見して変わった花で、草地の縁に花を咲かせています。山梨県では「準絶滅危惧(NT)」種。

(↑上の写真)左=ノハラアザミ、中=シモツケソウ、右=シモツケ

(↑上の写真)左=ハンゴンソウ、中=ツリガネニンジン、右=アキノキリンソウ

(↑上の写真)左=ウスユキソウ、中=ヤマハハコ、右=ゴマナ

(↑上の写真)左=夏空の広がる乙女高原、中=ワレモコウ、右=マルバダケブキ

都民の森三頭大滝(大滝の路)・ブナの路(野鳥観察小屋手前テラスまで)・・・令和4年8月15日

 大滝の路は整備されていて歩きやすいです。テラスまでは大滝から15分の山道です。ここにはいろいろな山野草が咲いていましたが、ここ数年シカの食害でほとんど鹿の歩けるところにはシダ類、一部のイネ科植物以外の野草がありませんでした。鹿が立ち寄れない大岩の上に咲いているタマガワホトトギスは食害を免れていました。今日の様子です。

(↑上の写真)左=駐車場からの登り口、中=整備されている大滝の路、右=三頭大滝

(↑上の写真・どれもタマガワホトトギス)右=大岩の上のタマガワホトトギス

 タマガワホトトギス(玉川杜鵑草)はユリ科ホトトギス属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「北海道から九州の温帯で、深山や谷沿いの湿ったところに生える多年草。和名は文学的に洒落た語源で黄色を山吹の色に見立て、その山吹で有名な名所、京都山城の井手玉川を借りた」とあります。長くタマガワホトトギスのタマガワは多摩川と思っていましたが、ひねりにひねって京都井出玉川だったんですね。多摩川でなくて残念ですが、この場所で鹿に食べられずに生き残ってほしいと思うところです。山渓:丸山尚敏著「山の花」によるとホトトギスというのは「花や葉に、油点状の汚褐色の模様が出るため(上の写真で花びらの内側に出ています)、これを鳥のホトトギスの胸毛の模様に擬えて付けた名であるという」とあります。

(↑上の写真)左=ツリフネソウ、中=キツリフネ、右=ヤマホタルブクロ

(↑上の写真)左=テラスへの山道、中=モミジガサ、と右=花のアップ写真

 モミジガサ(紅葉笠)はキク科コウモリソウ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「北海道から九州の林下に生える多年草。花は夏。和名は葉がモミジに似て、しかも若葉が傘状をしているのでいう。一名モミジソウ。東北地方ではシトギまたはシドケと呼び、萌え出したばかりの紫色を帯びた若菜を採って食する」とあります。Web「森と水の郷 あきた」によると「山菜シドケとして、独特の香り、ほろ苦み、シャキッとした歯触りで、秋田では人気ナンバーワンの山菜である。だから「山菜の王様」とも言われている。ブナ帯では、沢沿いの湿り気のある肥沃な腐植粘土質の土壌を好んで群生する。半日陰のスギ林などにも生えているが、茎が一様に細い。茎が太い極上品を採るには、やはり人跡稀なブナ林に勝るものはない」とあります。一度、思う存分食したいですね。

(↑上の写真)左=ソバナ、中=キツネノボタン、右=コボタンヅル

(↑上の写真)左=タマアジサイ、中=タマアジサイの咲き終わり、右=キバナガンクビソウ  

 タマアジサイ(玉紫陽花)はアジサイアジサイ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「本州の福島県以南から中部地方、四国の山地の谷間に生える落葉小低木」とあります。コアジサイヤマアジサイが咲き終わる頃、タマアジサイが咲きはじめます。タマアジサイの花は、中心に紫色の両性花が咲き、それを萼片4枚の白い装飾花が囲みます。装飾花は虫に花を知らしめるために花を目立たせる役を一生懸命しています。ガクアジサイとともに園芸種アジサイの原種といわれます。プラントハンターでもあったシーボルトが日本の山野から集めようとした植物でした。上の写真のように花が咲き終わり受粉を終えると、もう虫に来てもらわなくてもいいので装飾花の役割は終わります。中の写真は、装飾花が裏側になっています。役割を終えたことをそっと知らせています。

 キバナガンクビソウ(黄花雁首草)はキク科ヤブタバコ属。別名ガンクビソウ。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「本州、四国、九州から琉球列島、さらに台湾、朝鮮半島、中国に分布し、林内に生える多年草。茎は高さ30~150cm、葉とともに軟毛がある。下部の葉には長い柄がある」という。和名は黄色でうつむいた頭花をキセルの雁首にたとえたもの。

(↑上の写真)左=クサコアカソ、中=クサコアカソの花、右=ムカゴイラクサ

麦草峠野草園・・・令和4年8月5日

 ここの野草園は傍のヒュッテが世話をしています。近くに白駒池があるので観光客はそちらへ行かれるので、ここの野草園は知る人ぞ知る花の穴場になっています。いつ行っても訪問客はほとんどなくゆっくり山野草が観察できます。入園の協力金は100円です。今日の様子です。

(↑上の写真)左=麦草峠標高2127m、中=野草園入口、右=ハクサンフウロ

(↑上の写真)左=アキノキリンソウ、中=キリンソウ、右=シシウド

(↑上の写真)左=キンバイソウ、中=ゴマナ、右=カニコウモリ

 カニコウモリ(蟹蝙蝠)はキク科コウモリソウ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「四国、奈良県及び本州中部の亜高山帯の針葉樹林の下に生える多年草。花は夏から初秋、頭花は3~5個の管状花からなる。和名は葉形がカニの甲羅に似たコウモリソウという意味」という。葉形はタラバガニの甲羅に似ています。谷川で見かける沢蟹の甲羅を想像してしまうとあれ?と思ってしまいます。この草も一度見掛けると葉の形が変わっていて忘れられません。山に出かけた時には探してみてください。

(↑上の写真)どれもシュロソウ、左=草姿、中=根元の葉、右=花

 シュロソウ(棕櫚草)はシュロソウ科シュロソウ属。牧野新日本植物図鑑によると「中部以北の山地の林の下に生える多年生草本。葉は茎の下部に3~4枚出て、細長い披針形。7~8月頃、黒紫色の花を開く。花軸はざらついており、下部は雄花、中部以上は完全花である」という。吉野光子共著「花のハイキング」高原篇によると「アオヤギソウの変種とされる。茎の基部に古い葉鞘の繊維がシュロ毛のようになって残っているのはアオヤギソウも同じ。この類は環境によって形や花の色や形に変異が多い」とあります。根元の葉鞘にシュロのような繊維がついている様子が名の由来といわれます。黒紫色の花をつけたシュロソウのつんと飛び出た花茎が、緑の葉や赤色、白色系統の明るい色の花が多い野草園の中でひときわ異彩を放っています。一度見たら忘れられない花となるでしょう。

(↑上の写真)左=ノアザミ、中=ネバリノギラン、右=オヤマリンドウ

(↑上の写真)左=イブキジャコウソウ、中=タカネナデシコ、右=ウスユキソウ

(↑上の写真)左=ソバナ、中=ヒメシャジン、右=(白花)ヒメシャジン

(↑上の写真)左=ウツボグサ、中=(白花)ウツボグサ、右=ヤマハハコ

(↑上の写真)左=コバノトンボソウ、中=カライトソウ、右=ワレモコウ

 カライトソウ(唐糸草)はバラ科ワレモコウ属。本州中部の高山帯に生える多年生草本、日本固有種で滋賀県、長野県、岐阜県などで絶滅が危惧されているそうです。ワレモコウ属なので葉のつくりや草全体の姿はワレモコウに似ています。紅紫色の糸状のものは、雄しべの変化したものだそうでその糸の感じが中国伝来の絹糸(唐糸)のようなので、それに擬して唐糸草と名付けられたということです。鮮やかな紅紫色の唐糸が垂れ下がったような花が印象的でした。唐糸草というと中国からの渡来種かと思いがちですが、日本固有種、しかも中部地方の限られた高山にしかないという貴重なものです。(各種Web、牧野新日本植物図鑑、APG牧野植物図鑑スタンダード版等参照)

(↑上の写真)左=シャジクソウ、中=ヤマオダマキ、右=マルバダケブキ

 シャジクソウ(車軸草)はマメ科シャジクソウ属。APG牧野植物図鑑では「中部地方以北から北海道、および東アジア、ヨーロッパまで北半球冷温帯に広く分布。山地の草原や海岸に生える多年草」とありますが、牧野新日本植物図鑑では「本州中部ことに長野県の高原に生える多年生草本であるが、旧大陸には広く分布する」と、またウィキペディアでは「日本では、北海道、本州(宮城県群馬県・長野県)に分布し、海岸の岩上、山地の乾いた草原などに生育する」とあります。分布が全国区でなく偏りがあるので普通の図鑑には、なかなか掲載されていないようです。マメ科なので種子が5~6個入った豆果ができるとのこと。車軸草の名前の由来は、小葉が掌状、車輪状に並んだようすを「車軸」にたとえたものということで説迷?されていますがどうでしょうか。節を2段重ねるとヤエムグラのように車輪と見えなくもありませんが、少し強弁過ぎないでしょうか。むしろ葉より紅色の花に注目して、舞姫が紅い扇をかざして踊っているようなあでやかさに凝らして「舞姫草(まいひめそう)」と名づけるのはどうでしょうか。野楽力研究所からの提案です。そう想像するとクロード・モネが浮世絵に憧れ、ご夫人を舞姫に仕立てて描いた「ラ・ジャポネーズ」の画が思い出されますね。

(↑上の写真)左=クガイソウ、中=ヒメヨモギ、右=イタドリ

八千穂高原花木園・・・令和4年8月5日

 八千穂高原自然園に隣接する花木園を訪れました。ここは園全体を以前からフェンスで囲っていますのでシカの食害を免れた多くの山野草があちこちで花を咲かせています。今日の様子です。<写真をクリックすると拡大されます>

(↑上の写真)左=花木園入口、中=シモツケソウ、右=シモツケ

(↑上の写真)左=ヤマハギ、中=ワレモコウ、右=ギボウシ

(↑上の写真)左=ツリガネニンジン、中と右=マルバダケブキの草姿と花

(↑上の写真)左=アカバナイチヤクソウ、中=ノコギリソウ、右=ヤマオダマキ

(↑上の写真)左=オカトラノオ、中=クガイソウ、右=ヤマルリトラノオ

(↑上の写真)左=オミナエシ、中と右=マツムシソウの草姿と花

 マツムシソウ松虫草)はスイカズラマツムシソウ属。「APG牧野植物図鑑スタンダード版Ⅱ」によると、「北海道南西部から九州の日当りのよい山地の草原に生える多年草」という。マツムシソウの名前の由来については諸説あります。丸山尚敏解説「山渓カラー 山の花Ⅰ」によると「これはマツムシ、俗名チンチロリンという秋なき虫がよく棲んでいて、毎年秋の季節になると鳴いているような場所に生え、しかも鳴き始めるころから花を開くので、遂にこんな名がついてしまったのである」と解説しています。中村浩著「植物名の由来」には「私はこのマツムシソウを昆虫のマツムシ(松虫)と関連づけることにかねて疑問を持っていたので、その名の由来について独自の考察を行うことにした。仏具にある伏鉦(ふせがね)俗称松虫鉦(または単に松虫)の名は、叩いて出る音が松虫の鳴き声に似ていることに由来している。また、松虫鉦の形はマツムシソウの花が咲き終わった後の坊主頭のような果実の形にそっくりなので、植物のマツムシソウという名は、その果実の形が松虫鉦の形に似ていることに由来している。(原文翻案)」という。両先生の考察は全く違いますが、野楽力研究所としては中村浩説をとりたいですが、皆さまはどうですか。

(↑上の写真)左=カラマツソウ、中=ノハラアザミ、右=ママコナ

(↑上の写真)左=ヒヨドリバナ、中=ヨツバヒヨドリ、右=チダケサシ

(↑上の写真)左=ハクサンフウロ、中=キキョウ、右=ヤナギラン

(↑上の写真)左=シシウド、中=コオニユリ、右=花木園案内図

八千穂高原自然園・・・令和4年8月5日

 天気のはっきりしない日でしたが、観察の時は、偶然晴れ間に恵まれました。ここではシカの食害でほとんど花は食べられてしまっていますが、フェンスで囲われた二か所の柵内では山野草が咲き乱れていました。なかなか観察できないトモエソウはシカの食害から免れたようで柵外でもたくさん咲いていました。満開の時期を少し過ぎていました。今日の様子です。<写真をクリックすると拡大されます>

(↑上の写真)左=自然園入口、中=入口を通って園内に出た様子、右=トチバニンジン

(↑上の写真)左=ソバナ、中と右=トモエソウ

 トモエソウ(巴草)はオトギリソウ科オトギリソウ属。日本各地の日当たりのよい草地に生える多年草。5枚の花弁が巴形になっている花ですが、一日しかもたない一日花。巴というと大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に木曽義仲の側室として出てきた巴御前を思い出します。第16回に義仲と共に出ていました。書物では「色白く黒髪長く、容顔まことに優れた強弓精兵、一人当千の兵者なり」といわれたそうです。黒髪を鎧に垂らし、烏帽子を被り、白鉢巻を締めた凛々しい姿が思い浮かびます。宇治川の戦い義経軍に攻められ、義仲は、巴御前に落ちのびるよう指示すると、(書物では)最後のご奉公と言って、敵将の首を斬り落とし、その後、姿を変えて東国の方へと落ちのびて行きました。しかし、彼女は強運で、頼朝から召され、和田義盛に嫁ぎ、朝比奈義秀を産み、和田合戦のあと越中の石黒氏に身を寄せ、その後出家して、菩提を弔う日々を送り、91歳で生涯を終えたと伝えられています。出演は、木曽義仲青木崇高、巴=秋元才加でした。こういうことで今年は、特にトモエソウの花を見たかったです。(平家物語源平盛衰記、各種植物図鑑・Webなど参照)

(↑上の写真)左=サワギク、中=苔むす園路、右=ヒカゲノカズラ

 ヒカゲノカズラは「ウィキペディア」によると「ヒカゲノカズラ科ヒカゲノカズラ属。北半球の温帯から熱帯域の高山に分布し、日本では沖縄以外に広く分布している。山野に自生する多年草で、カズラという名をもつが、つる状ながらも他の植物にからまることなく、地表を這っている。茎には主茎と側枝の区別がある。主茎は細長くて硬く、匍匐茎となって二又分枝しながら地表を這う。所々から根を出し、茎を地上に固定する。側枝は短くて、数回枝分かれをし、その全体にやや密に葉をつける。夏に、胞子をつける。まず茎の所々から垂直に立ち上がる枝を出す。この茎は緑色で、表面には鱗片状になった葉が密着する。茎は高さ5-15cm、先端近くで数回分枝し、その先端に胞子嚢穂(ほうしのうすい)をつける。(上の写真参照)」という。村田威夫共著「シダ植物」には「常緑性のシダの仲間。日当りのよい斜面や道端に生育する」とあります。山の林縁の日の当たる湿った斜面でよく見かけます。

(↑上の写真)左=ギボウシ、中=ツリフネソウ、右=アカバ

(↑上の写真)左=チダケサシ、中=ワレモコウ、右=クガイソウ

(↑上の写真)左=コオニユリ、中=ヤマハハコ、右=夏空の広がる遊亀湖

(↑上の写真)左=オカトラノオ、中=ウツボグサ、右=タムラソウ(蕾)

(↑上の写真)左=シシウド、中=ミヤマウド、右=ヒヨドリバナとアサギマダラ(チョウ)

(↑上の写真)左=ノリウツギ、中と右=フシグロセンノウ

(↑上の写真)左=ヤマユリ、中と右=ヤナギラン 

 ヤナギラン(柳蘭)はアカバナ科ヤナギラン属。APG牧野植物図鑑によれば「本州中部以北と北海道の山野の日当たりの良いところに生える多年草。根でよく増えるので、しばしば群落をつくる。葉の形が柳に似ているので柳蘭」とあります。Web「四季の山野草」によると「高原の草地に群生し、名前は、葉が シダレヤナギ などの柳の葉に似、花が シランなどのランの花に似ていることから。しかし蘭の仲間ではない」とあります。アカバナ科ですね。田中肇著「花の顔」には「花は雄から雌に性転換する。朝開いた花では雄しべの半数ほどが花粉を出し、2日目には残った雄しべの葯が裂ける。この間、雌しべは下を向いていて花粉を受けない。3日目になると前方に突き出ていた雄しべはうなだれ、雌しべが立ち上がって柱頭を4つに開いて花粉を受けるようになる。花穂は下から順に咲きあがるので、花穂の下部に雌の状態の花が、上部に若い雄の状態の花がつくことになる。マルハナバチは蜜を吸いながら、この花穂を登っていく。そのため、ハチはまず雌の花に別の花穂の花粉を渡し、やがて雄の花から花粉をもらって次の花穂に飛んでいくことになる」とあります。そばでゆっくり観察したいですね。

(↑上の写真)左=イブキジャコウソウ、中=キバナノヤマオダマキ、右=マルバダケブキ  

小石川植物園・・・令和4年7月28日 

 小石川植物園は、3代将軍徳川家光公の時(1638年)に麻布に造られた御薬園が始まりで、8代将軍吉宗公の時(1683年)小石川に移転され、現在とほぼ同じ約15万㎡に拡張、本格的に整備されました。翌年に養生所も開設され、井戸も整備されました。明治10年(1677年)には東京大学に付設され、現在に至っています(解説板による)。今日の様子です。

(↑上の写真)左=植物園入口、中=イトラン、右=ニュートンがリンゴが落花する様子から万有引力を考えついたというリンゴの木の子孫

(↑上の写真)左=カノコユリ、中=ミソハギ、右=オミナエシ

 オミナエシ(女郎花)はスイカズラオミナエシ属。APG牧野植物図鑑スタンダード版によると「北海道から九州の日当りのよい山野に生え、東アジアの温帯から暖帯に分布する多年草。根茎は太く横に伏し、株わきに新苗が分かれて繁殖する。和名はオトコエシに対し優しいので女性にたとえて言う」とあります。どういうところが優しいのか疑問が残りますね。丸山尚敏著「しなの植物考」には「稼ぎ頭の男が白米を食い、家を守る女が粟や稗を食べる。オトコエシの数多くつける小さな白い花を米花と呼び、白米に見立てて男飯(オトコメシ)、オミナエシの黄の粒つぶの花を粟花と呼び、粟や稗に見立てて女飯(オミナメシ)と呼んでいたものが変化してオトコエシ、オミナエシになったという説が紹介されています。森鴎外著『雁』に「土曜日に上条から(北千住の)父の所へ帰ってみると、もう二百十日が近いからと言って、篠竹をたくさん買ってきて、女郎花やら藤袴やらに一本一本それを立て副えて縛っていた。しかし、二百十日は無事に過ぎてしまった。それから二百二十日があぶないと云っていたがそれも無事に過ぎてしまった。しかし、そのころから毎日毎日雲のたたずまいが不穏になって、暴(あれ)模様に見える。折々また夏に戻ったかと思うような蒸し暑いことがある。巽(たつみ=南東)から吹く風が強くなりそうになってまた歇(や)む。父は二百十日が「なしくずし」になったのだと云っていた。」と、嵐の空模様に備える秋の風情が描かれています。

(↑上の写真)左=ハマオモト(ハマユウ)、中=養生所の井戸(史跡)、右=キクイモモドキ

 ハマオモト(浜万年青)別名ハマユウ(浜木綿)はヒガンバナ科ハマオモト属。「APG牧野植物図鑑スタンダード版」によれば「関東地方以西、四国、九州、琉球列島、済州島に分布し海岸の砂地に生える常緑の多年草」という。牧野富太郎著「植物一日一題」によると「茎のように見えるのは、葉鞘が巻重なって偽茎となったもの。従って木のようだが、木本でなく草本。種子はコルク質の種皮に包まれ海水に浮かび、彼岸に流れ着く。万葉集柿本人麻呂が浜木綿を詠んだ歌が載っている。浜木綿とは浜に生じているハマオモトの茎の衣を木綿(ユフ)に擬してそれで浜ユフといったものだ。ユフとは元来は楮(コウゾ)の皮をもって織った布である。万葉集の時代には、まだ綿は無かったから畢竟木綿を織物の名としてその字を借用したものにすぎないということを心に止めておかなくてはならない」(一部翻案)と書いています。因みに柿本人麻呂の歌は、Web「万葉集ナビ」によると第4巻 496番歌「み熊野の浦の浜木綿百重なす心は思へど直に逢はぬかも」口語訳は「熊野の浦の浜木綿の葉が幾重にも重なっている。そのように逢いたくて逢いたくてたまらないが、旅路にある身。直接逢えないのが無念だ」

(↑上の写真)左=トウフジウツギ、中=タイワンニンジンボク、右=東京医学校の建物(史跡)

(↑上の写真)左=日本庭園、中=エンジュの木遠望、右=エンジュの花

 エンジュ(槐)はマメ科エンジュ属。「APG牧野植物図鑑スタンダード版」によると「街路樹や庭木として植栽される落葉高木。中国原産で日本へは仏教の伝来と同時に渡来したといわれる。高さ15~25m、花は夏から秋、枝先に複総状花序をつくり、花の長さは12~15mm。花の色素はルチンを含み実とともに薬用。また黄色染料にする。中国では尊貴の樹とされ、三公の位を槐位(かいい)という」とあります。葉室麟著『緋の天空』に槐が出てきます。「(奈良の都)大路を行く人々は思わず、足を止めて(弓削清人が吹く龍笛)笛の音色に耳を傾けた。ゆったりと進んでいく黒牛が(街路樹の)槐(えんじゅ)のそばを通りかかった時、清人は槐の枝を見て、くすりと笑い、息を大きく吸い、ひときわ高い音色を出した。すると、槐の幹につかまり、あたかも枝のように見えていた唐鬼の姿が現れた。大路の人々はそれまで槐の木にひとが登っていることに気づかなかっただけに、驚きの目を向けた。唐鬼は苦い顔をして槐から飛び降りた。清人が素知らぬ顔で過ぎていくのを見つめながら、唐鬼は、小僧め、わしの隠形(おんぎょう)を破りおった、と口惜しげにつぶやいた。またしても、つむじ風が土埃を巻き上げた」と。似ている樹にハリエンジュ(ニセアカシア)がありますが、ニセアカシアだったら棘が幹や枝にありますからおちおち隠形(おんぎょう)で隠れてはいられませんね。槐でよかったです。

(↑上の写真)左=イヌビワの実、中=ハナズオウの実、右=ヨウシュヤマゴボウの実

(↓以下温室の様子)

(↑上の写真)左=温室正面入口、中=温室外観、右=温室内部

(↑上の写真)左=ベニヒモノキ、中=ゲンペイクサギ、右=クルマユリ(温室内冷温室にて)